金木犀03 ページ3
｢君、いつもシフトは夜なの？｣
｢うん。大学終わってサークル活動終わったくらいから入ってる｣
｢へぇ、サークル。懐かしい響きだな。なにやってんの？｣
｢…演劇｣
照れたように上目遣いで俺をみる。
演劇かあ。見てみたいなと思う。
そのまま口に出すと、少し耳が赤くなった。
｢おにいさん、名前なんて言うの｣
｢俺？大野智。そこで働いてるしがないサラリーマンだよ｣
｢え、あのおっきいとこ？すごいじゃん、エリートリーマン様だ｣
くふくふ笑っていると、お客さんが入ってきた。
顔を見合せて、店出るよと目で挨拶する。
彼が、自分の胸元の名札を見せながら言う。
｢和也。ニノって呼ばれてる。大野さん、また会えるといいね｣
花開くように笑うんだからたまんない。
今どきの大学生ってこんなキラキラしてるのかな。おれもおじさんになったってことだろうか。
｢うん、また来るよ｣
買ったばかりの煙草をヒラヒラと見せて、店を出た。
二宮くん、ニノとはそれからも何回も顔を合わせた。
残業の合間に買い物に行くと、嬉しそうに俺の顔見て笑う。エナドリだと栄養偏るからって、肉まんとかあんまんを押し付けられた。
｢お前これ廃棄になるからだろ？｣
｢バレたか。いいじゃん、エコだよ｣
許可してないのに、しっかりとレジも打たれた。
｢あ、リーダーがサボりから戻ってきた｣
｢何言ってんの｣
笑いながら、みんなに中華まんを一つ一つ配っていく。
｢え、ありがとうございます｣
｢どうしたんですか、これ、｣
｢ん、なんか、押し付けられた。コンビニの店員に｣
｢なんすか、それ｣
怖い店員だってみんなが笑いながら各々休憩を取り出す。自分のデスクについて、最後に残ったあんまんに齧ると、確かにふわっと甘くて、疲れが取れるようだった。
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作者名：楽斗 | 作成日時：2021年11月6日 0時
