anthos/気象on (ページ17)

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エレモフィラの銀色05 ページ17

観にきてるよ。真ん中くらいの席にいる。
ニノ見つけたら手振るね(笑)

大野さんからのLINEに胸が高鳴った。
あーもうどうしよう、ほんと。だらしなくニヤけるのが恥ずかしい。

振らなくていいってって返すと、すぐ手を振ってるスタンプを送ってくるから笑っちゃう。用意してたな、この人。

｢よし、じゃあみんなまずは初日、頑張ってこう。今日は特に思い入れ強い奴も沢山いると思う、人生決まる奴もいると思う、まあでも変に力は入れずに、やりきろう｣

部長が言うと、みんな真剣な顔して返事をする。

開幕を知らせるブザー音がなる。
基本的には、静かな劇だ。
ぱっとしない主人公が、秋の、金木犀の季節に俺と出会い、不思議な力を手に入れる。それで出世するんだけど…っていう、落語の、死神の現代パロディ。
まあ、キスシーンは、脚本書いたやつの好みだろう。

落語と違って演劇だから、登場人物も多いし、話もオリジナル部分を継ぎ足してる。

｢俺があんたに、いいこと教えてやろうか｣

俺は基本的に客席を見ずに演者たちを見るから、大野さんを見つけることは出来なかった、いや、見つけないように努めた。

キスシーンは、おれからするんだ。
大野さんがしてくれたみたいに、主人公の頬に手を滑らせて、触れるだけのキスをした。

金木犀は、主人公が好きだった。