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肉を切り裂く鈍い音と共にズキッ、と僅かな痛みが走る。しかしその数秒後、その痛みは次の瞬間微弱な電流のような快楽に変換された。ぬるま湯に浸かっているような、頭がぼんやりとして微睡むような、何処か心地よい感覚に体を委ねる。
前回は思わず意識を失ってしまいそうになってしまう程に強烈だったけれど、今回はそうでもなかった。きっと昨日は極限状態だったからだな、とハッキリしない頭でぼんやりと考えた。心地よいと感じつつも、昨日の刺激的な感覚が忘れられなくて若干物足りなさを感じてしまう。すごく変だ。
「………ん、ごちそうさま」
首元から温かい感覚が離れて、ようやく意識が現実へと引き戻された。ぐらりとする頭に手を当てて、きんときくんの方を見る。吸い込まれそうな蒼色の瞳と目が合うと、とろりと優しく瞳が溶けた。それは自分を愛おしげに見つめているようで、少しばかり意識してしまう。僅かに体温が上がって、心臓の鼓動が速くなる。
「Aさんは、激しい方が好き?」
物足りなそうな表情をしていたのだろうか、少し悪戯っぽくそう聞かれて、私はブンブンと勢いよく首を横に振った。そんな反応をすると、冗談だって。とまた彼は笑う。
「………なんか、落ち着くね」
『そう?』
「うん。いつも嘘ついてるから、こうやって嘘つかないでいるのって新鮮だなって」
蒼色の瞳に哀しみの色がちらつく。その哀しみの色から、今までの彼の苦労がほんの少しばかり見えた気がした。いや、きっときんときくんは、私が想像してるものの何倍以上も大変な思いをしているに違いない。大切な友人の前でも自分の正体を隠し続けなければいけない、そんなの自分だったら耐えられない。もしバレたら友情が壊れちゃうのではないか、化け物を見るような目で見られるのではないか。そんな事を考えると、底の見えない縦穴に突き落とされたような感覚に陥る。あくまでも想像でしかないけれど。
『……別に私の前だったら、嘘つかなくていい……けど』
「おっと……ツンデレかな?」
『ツンデレじゃない…!茶化さないでよ、真面目に言ってるんだから!』
「そっかそっか真面目にね〜?」
真剣に言っているのに、ふざけたような返答しか返ってこなくて頬を膨らませる。
「………嬉しいよ。ありがとう」
ふわりと優しい笑みで笑うものだから、言おうとしていた文句もいつの間にか頭から抜け落ちていた。
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神崎いのり(プロフ) - ゆのさん» 返信が大変遅くなってしまい申し訳ございません。コメントありがとうございます…!そう言って頂けてとても嬉しいです🥰緩くではありますがちまちまと更新していきますのでお付き合い頂けると幸いです✨ (4月19日 16時) (レス) id: 8fac357c0d (このIDを非表示/違反報告)
ゆの(プロフ) - ほんとにとても癖です、、、!!!更新待ってます😿 (12月28日 15時) (レス) @page11 id: 8aabdc3085 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神崎いのり | 作成日時:2023年12月15日 23時