scene 27/side YOU ページ16
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コト、ってお水の入ったコップが置かれる。
何回目かな、健人さん家で泣くの。
健「ごめんね、いっぱい傷つけて、いっぱい泣かせたね」
「そんなことないッ......！」
健「ん........ありがとう」
ニコッ、って笑ってくれるけど、それは完全な笑顔じゃない。
だって私の大好きなキラキラした目じゃなかった。もちろん、私のせいだ。
健「.......俺がまだ２年生になったばっかりのとき、必修の科目だったレポートを提出し忘れて、
そっちのキャンパスまで行ったことがあるんだ」
健人さんが大学２年生だったとき。私は１年で、まだ実家から近い方のキャンパスに通っていた。
健「教科担当の先生がまだ授業中だったらしくて、ちょっと暇つぶししようって思って、
それでね、本屋に寄ったの」
ゆっくりゆっくり、優しい声で話してくれる。
健「そういえば夏川さんの新刊出てたっけなぁ、なんて思ってね、探してた」
ふいに、健人さんと視線がぶつかる。
健「そしたらね、茶色いエプロンをした、俺と同じくらいの年の子がいたの。
新刊コーナーの本を並べてた。
一冊一冊、すごく丁寧に並べてた。棚にトン、って置いて、背表紙をスッて撫でて。
それを見てね、あぁ、きっとこの人も本が大好きなんだろうなぁ、って思った」
健「そしたらね、その人が俺に気付いて、『いらっしゃいませ』って。
すっごいキラキラした笑顔で言ったの。
俺ね、あんなスピードで人に恋したの初めてだったんだよ。」
健「そのあとも何回か、その本屋に行ったんだけど、もう会えなかった。」
健人さんの綺麗な目を見ながら、そういえば私も去年まであっちのキャンパスの近くの本屋でバイトしてたなぁ、って思ってた。
健人さんをこんな目にさせる人はきっと、とっても素敵な人なんだろうな、って。
........少し健人さんの顔が滲んできた。
健「だからさ、それから何年かたって、俺の隣りに新しい人が引っ越してくることになって、
その人をたまたま見かけたときは、ほんとに、心臓が止まったかと思った」
健「駐車場に止まった軽トラから、一人ででかいダンボール運んでる子がいてね？笑
あぁ、明日筋肉痛になるだろうなぁ、って思いながら見てた。」
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作者名：リンゴ | 作成日時：2016年5月29日 17時
