狗巻棘の犬

犬３０匹 ページ31

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『…失礼してもよろしいでしょうか』

小さな声でしゃけ、と返事があったので入る




何も無い

ただ布団とか机とか最低限のものだけ

質素な部屋

用意されただけ

それが本家の棘くんの部屋




…寮の棘くんの部屋と少し対比してしまう




さっきまで着ていた着物を

床に乱雑に脱ぎ捨てて高専の制服に着替えて

布団の中に潜っていた




『あの…これ高いんですからね？』


と、衣架に掛けながら言うと棘くんは昆布…と返した




あーあ、似合ってたんだけどなぁ




棘くんはチラッと布団から顔を出すと


「…A」


『はい』


「いつも、どおりに」


『…うん』




そっと横に座る

これぐらいしか、私にはできないから

私から変なことなんて言えない




『…犬にしてください。今』

「明太子?」

『ふふ、なんとなくです!』



そう笑って言えばおずおずと私を犬にしてくれた


「!」


棘くんの布団の中に潜り込んで、

腕に顎を乗せる



犬だから喋れないけど、

これでいい




棘くんの目が少し潤んでたけど、

優しい笑顔で頭を撫でてくれた



『！』



ドキッってした


いつもとは違う笑顔だから?

撫でてくれたから?


……



『(…違う、違うよ……)』



ダメだよ、この気持ちにはもう蓋をしたんだから

知らないフリして、またいつもみたいに、

棘くんの従者であり続けて、そばに置いてもらって、


それでそれで、…





『(犬、って呼んでもらえればそれでいいじゃん…)』





この気持ちにずっと蓋をしていたからなのかな


もう蓋をして留めておくことが難しい程に




『(好き、か……)』





本当は、犬なんてやめたいのが本音




でも今は棘くんの腕の中で

頭を撫でてもらえるだけで充分過ぎる






「?ツナマヨ…?」






…明日からは犬じゃなくて、従者としてそばに


…だって、君は他の誰かの物になっちゃう








棘くんの匂いも温もりを噛み締めた

これで最後だよ、私。と言い聞かせるように






棘くんの方が悲しいはずなのに、

なんで私が悲しむんだ。バカ…









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