弟切草が5輪 ページ5
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震える指先で父の右手に触れればとてと冷たく陶器のようだ。
両手で持ち上げればカチャリと刀が重力に従い地面に落ちた。。
彫刻品の類と思いたいがこの手の形が昨夕僕の頭を優しく撫でたあの右手そのもので、ボロボロと目から雫が溢れ頬を傳う。
｢父さんっ……ぅ、あ"ぁっっ……｣
涙を流しながら父の手を握って蹲る。
血の匂い混じりに金木犀の香りがして昨日の事が頭の中で巡り、この状況が夢であればと何度も考えるが心の痛みが現実なのだと、目を背ける事を許さない。
父の手を握りながら母に縋る思いで近づく。
｢ど、し…てこんな……ことにっ…！！｣
動くことのない母の身体、右手のみになってしまった父。
家は玄関あたりを中心に半壊している。
幸せだったのに、優しいあの時間がもう戻ることはない。
泣きすぎて枯れた声と止むことのない涙、手には乾いた血の感触、酷くこびりついた血の匂い。
ほのかに感じるあの金木犀の香りが胸を締め付ける。
ザァァァと強い風が吹いてふと後ろに人の気配を感じた。
｢お前がAAだな｣
初めて聞く人の声なのに名を呼ばれ思考が一瞬止まる。
だがゆっくりと振り返り首だけをコクリと動かしなんとか頷く。
｢…母親か｣
｢はい…｣
よく似合っていた山吹色の着物は母自身の血で赤く染まり、元の色がわからなくなってしまっている。
手足に見える切り傷や刺し傷は数え切れず見ているだけで痛々しい。
その人は少し周りを見渡すと刀の方を見て動きを止め。
数秒、いや数十秒だろう。それを見て何を考えているのかわからないが、黙ったまま父の折れてしまった刀へ近づき屈んで拾うような動作が視界の端に写す。
｢お前の両親に頼まれて迎えに来た｣
｢ぇ…？｣
その言葉に顔を上げ、初めて相手と向かい合う。
首に大きな切り傷の痕が目立つ男は、僕の前で屈み父の手を取り。
小さく｢明彦…｣と震える声色で父の名を呟き、グゥッと拳を握る。震えているように見える。
｢A、お前は両親の仇を討ちたいか｣
｢っはい！！｣
俺の瞳に宿る憎しみの炎をきっとこの男はその目介して汲み取っただろう。
｢俺は鬼殺隊水柱
｢お前を俺の師の所へ送ってやる。身支度を整えろ｣
宮藤幹典と名乗った男は現れた鴉に折り畳んだ紙を足首に巻き、空へと放つ。朝日の眩しさに嫌悪した。
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作者名：呀弥 | 作成日時：2019年10月26日 3時
