弟切草が3輪 ページ3
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｢この辺りの夜はそれなりに暗くて寒いですし、体調が悪そうに見えて…。余計なお世話かもしれませんが｣
｢母さん、湯が湧きそうだよ」
僕は耐えきれず影から出て、今ここにやってきたフリをして男性のことを初めて目に写す。
黒髪に紅梅色の瞳を持つ男性と目が合った瞬間謎の寒気が身を包む。
男性が僕を見て少し目を見開いたが、その口はクツリと笑みを浮かべる。
男がこちらに1歩近づいてきた。が、その間に父が僕と母を守るように前へ出た。
｢何者だ｣
｢！｣
父の腰にはいつも床の間に置いてある刀を身につけている。
それを目にした男は何が面白いのか突然笑い出す。
｢そうか、そうか…。お前が……｣
｢ならそいつは最上の稀血だな｣
何やらブツブツと呟きながら左手で顔を覆い隠し、その隙間から見える目は獲物を見つけた獣そのもので、僕は足先から冷えていくような感覚に陥る。
父が刀に手をかけるとヒュウウウゥと風のような音が辺りに響く。
｢天の呼吸 壱ノ型・暁 ！！｣
鞘から抜かれた刀身が月光を返して淡く輝き、その眩しさに一瞬目が眩むと父が叫んだ。
｢すみれ！Aを連れて逃げろ！！！｣
光の中へと父の姿が消えてしまい僕は思わずその後を追いかけようとするのを母が止め、腕を引かれて走り出す。本能であの男から逃げなければと察する。
背後から激しい何かがぶつかりあう音がするが振り返る事はできない。
手を引かれて裏庭の出口の戸を開けようと走っていたら母がウッと唸りその場に転けてしまう。
母の足元を見れば黒い鉄線のようなものが右足首に刺さり血が溢れている。
｢母さん！！｣
｢A、こっちに！！｣
心配して呼びかける僕を無視し、右足を引きずりながら母は再び僕の手を引いて歩く。
だが今度は外へではなく、少し奥まった所にある押し入れだった。
｢これを持ちなさい。朝になるまで決して出ては駄目よ｣
｢そんな！母さんは…母さんはどうするの！？｣
押し入れに僕を入ると懐から紫色の包みを取り出す。藤の花の匂いがするそれを僕に持たせる。
｢私達が必ずAを守るわ。大丈夫だから…そんな顔をしないで｣
｢嫌だっ、行かないで！ここにいてよ！｣
少し困ったような顔をする母、音がこちらに近づいてきている。早く隠れるか逃げないといけない。
｢あなたの事を愛してる。…必ず約束を守ってね｣
苦しいぐらいに抱きしめられて、涙を流しながら母は僕を離し襖を閉めた。
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作者名：呀弥 | 作成日時：2019年10月26日 3時
