弟切草が1輪 ページ1
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茎辺りを摘んだら潰さないよう慎重に切り、持った花を籠に丁寧に入れた。
屈んでいた体制から立ち上がれば、一面には綺麗にコスモスが咲き誇っている。
｢Aー！｣
声がした方を見ると、コスモス畑の向かいから母がこちらへ手を振る。
鋏を腰に巻いた鞄にしまい、駆け足で向かう。
日が傾いてきたから帰ろう、そう言われ僕が頷づくと母は僕を見てクスりと笑みを浮かべた。
｢葉が髪についてるわ｣
｢ありがとう｣
髪に切った時のコスモスの葉がついていたようで、それに母が手を伸ばして取ってくれた。
四半刻ほど歩いて並木林の中から見えてきたのは小さな平屋、近くに大きめな花壇があり様々な種類の花が咲いている。
｢母さん、花を蔵に入れてくる｣
｢戻ったらお父さんが部屋で待ってるそうよ｣
｢わかった｣
母が持っていた分の籠を受け取り、裏にある蔵へ保管しに行く。
早く水につけておかないと萎れてしまうからだ。
摘んだコスモスを水の入っている桶に移し終え、蔵の戸を閉めたら父のいる部屋へと歩いた。
｢少し片付けなよ…｣
｢ははは、母さんにも言われたよ。で、ちょっとこれを嗅いでほしくてな｣
父の元へ訪ねれば、机の上に庭に咲いているいくつかの花と酒などが置かれていた。
ちょうど小瓶にそれを移したところらしい。
机の前にある椅子に腰掛け、差し出された小瓶の栓を抜いて手で仰ぐとふわりと金木犀の香りがした。
｢金木犀か、良い香りだ｣
｢なかなか良い仕上がりだろう｣
コクコクと頷く僕を見て父が満足気に微笑む。
父は鼻が利かない、昔は普通だったらしいが何故利かなくなってしまったかは教えてもらえない。
あまりよくないことだが、こうして何かのことで父と話せることを僕は嬉しく思っている。
金木犀の香水が入った瓶を机に置き、時計を見ると夕餉の準備が始める頃だ。
｢夕餉の手伝いしてくる｣
｢A、おいで｣
椅子から立ち上がり、扉の方へ向かおうとしたら父に引き止められ足を止める。
振り返れば父も椅子から離れ、右手で僕の頭を撫でた。
｢お前は母さんに似てしっかり者だ、いつも手伝いをしてくれてありがとう｣
｢好きでやってることだからいいよ｣
フッと父が目を細め口元を緩ませる、それにつられて僕も笑みを溢す。
数回撫でられた後ぽんっと優しく叩いて右手は離れた。
一礼してから父の部屋を出て襖を締め、母のいる台所へ歩を進めた。
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作者名：呀弥 | 作成日時：2019年10月26日 3時
