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「あ、」
思わず声を出してしまって目があってその人が俺のことを見た。
「あ、うたの人」
それじゃうたのおにいさんじゃねえかと思ったけど、なんでもいいから思い出してもらったことがそわそわした。何か話す気なんてさらさらなかったのに、思わず頭をフル回転させて会話を紡いでしまった。
「…あの歌、耳に残ってて」
「ですよね、別に好きなわけじゃないんですけど……なんでですかね」
「気になり、ますね」
うそ。気になってないけど。そんなことわざわざ言うのはほら、あれだろ?うん。あれだから、気になるふりをした。半熟卵が半分ごと入ってる豚骨ラーメン味のおにぎりと、ほっとれもんという食べ合わせの悪そうな組み合わせをレジに置いて財布をゴソゴソ探る手は、似合わないくらいの傷の跡が幅広く付いている。
いつもならめんどくせえな、と思う1円玉をパチリ、と置く指の先は爪がまあるい。ネイルもしてないし磨いてもいないのに、可愛いなあと思った。……なんかこう青年誌の裏表紙にたまにいる女の子を見て好みだな、って思う感じって言ったらわかるか?まあそんな感じだ。
「ありがとーござーましたー」
まだ2回しか見たことないけどさ、この人、この近くに住んでんのかなって思って、後ろ姿を目で追った。
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次、その人が来たのは次の日。電話片手に大きめの作業服の上だけを着て蛍光黄緑のスニーカーを履いていた。いかにも現場の人、という風体だ。肉体労働職ならあの手の傷も納得がいった。
言葉はとても楽しそうに俺と話す時と変わらず丁寧で、それでいてフレンドリー。耳と肩で携帯を挟んで缶ビールをガチャガチャとカゴに入れている。レジに向かおうとしたが、今日は(自称)高校生のチャラめな女と二人体制だった。はあ、クソ。
「あのお、なんか荷物送りたいらしいんですけど」
ふと顔を上げるとレジ対応していた女がめんどくせえ、と顔に貼り付けながら俺に話しかけた。俺も緩みそうな頰をしょうがないな、という顔に隠してその人の対応をする。送り主のところを好奇心に負けて見ると、「爆豪勝己」と書いてある。バクゴウカツキ?この人の名前だろうか。カツキは女でも男でもありえる名前で手を止めると「書き漏らしありましたか?」と慌てた声が聞こえて急いで否定した。
そこで俺に気付いたようでその人はほのかに色の付いている唇を横に少し引いて、目を細めた。
「いつもお疲れさまです」
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無気力感(プロフ) - 花帆さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけてとても嬉しいです〜!シリ…もある……?ない…?いやもうそれはよくわからない……笑 これからもよろしくお願いします! (2019年3月26日 22時) (レス) id: b33f570211 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 面白くて一気に読ませて頂きました!かっちゃんの日記萌えます(*´艸`*) 日記をつけてる意味などを考えると、シリアスな展開もあるのかな…?なんてハラハラしつつも、かっちゃんとの日常にときめきます(*´ω`*) (2019年3月14日 5時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無気力感 | 作成日時:2018年11月20日 15時