「君は悪くない」6

297.変な話（キム・テレ） ページ50

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「……変な話をしてもいい？」

 そう聞いてきたナナ兄さんに頷くと、ナナ兄さんは「ありがとう、ごめんね」と言って。それからきゅっと目を瞑って、開いて、小さく息を吸って吐いて、また話し始めた。


「……ヨンジュがああなったの、リアコ売りしてたからってよく言われてたでしょ」

「……え、あ……」


 思わず言葉が詰まる。

 確かにヨンジュさんは出待ちをしていた自身のファンに刺され、まるで無理心中をするようにそのファンも命を絶ったという。ヨンジュさんがファンに対してまるで恋人のように接していたことが、ヨンジュさんを殺してまで独り占めしたいと思う過激なファンを生んだ原因なのではないかと、SNSやネットニュース、ワイドショーでは散々に言われていた。
 でもこれは、ナナ兄さんから聞いてきたことだとしても、その事実があったとしても、本当に頷いてしまってもいいものなのだろうか。


「……ごめん。本当に変な話だったね」

「いや……すみません、ナナ兄さんからそんな話されると思わなくて……」

「そうだよね。絶対に暗い雰囲気になっちゃうし、俺がこういう話をするべきじゃないとは分かってる。だから今までは明るい昔話しかして来なかったんだけど……ちょっと……最近色々偶然が重なっちゃったから。つい、ね」

「……」


 偶然。多分、それは課題曲にヨンジュさんが好きだった『Man In Love』、そしてナナ兄さん自身が制作に携わりヨンジュさんとMCステージを披露した『Home』があったこと、そしてその『Home』をナナ兄さんがまたカバーすることになったことだろう。全部が偶然と片付けるにはあまりに出来すぎているから、もしかしたらそうではないかもしれないし、ナナ兄さんもそれを察してるのかもしれない。


(……ナナ兄さん、本当はずっと辛かったんじゃ……)

 ナナ兄さんは気にもしていないように振舞っていたけれど、そんなことはなかったんだと今更気付く。自分が同じ立場だったらと思うと心臓が冷えて嫌な汗がくるくらいなのだから、どんなに強い人だったとしても当事者であるナナ兄さんがいつも通りで居られるはずがない。そんな簡単なことを、俺達は全然分かっていなかった。



「……いいの。確かに言い方は誹謗中傷かってくらい酷かったけれど、ヨンジュがああなってしまったのはファンとの距離が近すぎたからっていうのは、否定出来ないから」

 多分、そうなんだと思う。

 ナナ兄さんは、そう小さく呟いた。





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