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287.苦しくても ページ40





「——『나는 이렇게 너를 보내고 싶지 않아(僕はこんな風に君を見送りたくないんだ)』…………違う、もっと……」

 ジョンウ兄さんと直し始めた振り付けと動線を振り返りながら、ダンスの練習をした後。気分転換をしようとボーカルの練習を始めたのだけど、自分のソロパートを歌ってもどうもしっくりこなくて、思わず首を振りながら大きなため息を吐いた。音程が外れたり声が裏返ったわけではない。でも。


(……ただ譜面通り上手いだけじゃだめだ。もっと、私がこの曲を歌う意味があるように歌わなきゃ……)

 このパートは特に。唇を軽く噛みながら思う。


 『Home』の歌詞を書いたとき、ここだけに強い意味や思いを込めたというわけではない。二年前のヨンジュとのMCステージだって、確かにこのパートは当時も私が担当したけれど、それでも特に苦労したとかそういうエピソードはなくて。だからあんな直感的に「このパートは絶対に歌いたい」と思って、それをみんなに言ったのは自分でも不思議なくらいだった。
 でも、トレーニング前にホンハイとユンソとMCステージの映像、そしてこのパートを歌う自分の声や表情を見て、このパートが歌いたかった理由が少しだけ分かったような気がした。

 あの時の私は、想像で書いた歌詞を想像で演じて歌うことしかしてなかった。当然ではある。当時の私は大切な人やものを失って、悲しみや罪悪感を抱えて生活を送るなんて経験は無かったし、これからもそんな目に遭うとは思ってもなかったから。私は性を隠してステージに立っていたから、アイドルとしての人生が普通よりは短いというのは理解していたけれど、それでもあんなに早く、全てを失う形でN͜͡umberで居られなくなるとはちっとも想像できなかったんだ。
 だから、この歌詞を歌うのは苦しい。あまりに私の現状に沿っているから。



(でも、だからこそ……私の感情や記憶を歌声や表情に乗せれば、きっとあの時よりも良いパフォーマンスになるはず)

 成長、というには皮肉が過ぎるかもしれない。それでもこの歌詞を、今の私が歌うのは意味があることだって。ステージで消化できれば何かが変わるんじゃないかって。そう思いたかった。そうじゃなきゃ、私はひとり蹲ったまま一歩も進めないから。

 だから、苦しくても歌わなきゃ。歌えない私には、何の価値もないんだから。

 そう思って、しまっていた記憶をゆっくりと思い出しながら、私は震える喉で息を吸った。





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アップルパイ(プロフ) - なのこ5546さん» いつもコメントありがとうございます! 更新してすぐ読んで頂いて本当に嬉しいです。書いてる自分もしんどいな……と思っているので、早く明るいシーンまで行きたいなとなってます……🥲 これからも更新頑張るのでぜひよろしくお願いいたします。 (8月4日 3時) (レス) id: a55c9bddea (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - 最新話読みました!思わず、ナナー!!!!って叫んじゃいました😭アップルパイさんの小説大好きなのでこれからも更新楽しみにしています💘 (8月2日 7時) (レス) @page22 id: 2327b9d39c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アップルパイ | 作成日時:2023年7月24日 22時

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