266.消えないもの ページ19
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(たぶん、このタトゥーがあるからなんだろうな……)
事ある毎に心臓や胃が痛くなってしまうのは。シャワーを浴びながら、鏡に映った自分を見て思う。
服、更に男装用のサポーターの下に隠された、あばらの左部分。私以外誰も見ることがないその場所に、私はタトゥーを入れていた。『Nana no moe』。ハワイ語で「夢を忘れるな」という意味のその言葉は、ヨンジュが見つけてきてくれたもので、デザインもヨンジュが考えてくれて。
デビュー曲が完成して、振り入れをしていた頃。ヨンジュが「MV撮影する前にタトゥー入れに行こうかなって思っててさー」とふと言って、それに「私もタトゥー入れたい」と返したことがきっかけだった。
最初ヨンジュは「そんな私も〜って気軽に入れていいやつじゃないと思うけどな!? Aは女の子だし……あ、別に女の子がタトゥーしちゃダメってわけじゃなくて……!」と珍しく焦っていたけれど(その割に私のピアスは遠慮なく開けていたけれど)、私が「気軽じゃなくて、色々考えて入れたいって思ったの」と言ったら納得したようで、「入れたいデザインが特に無いなら、俺がデザイン考えていい?」と言ってくれた。それに頷いて、それで私は『Nana no moe』という言葉をタトゥーとして体に残すことになったのだ。
(……場所、結局教えられなかったな……)
でも。デザインはヨンジュが考えてくれたけれど、あばらに彫るというのは自分で決めた。それはヨンジュすら知らなくて。
"覚悟はしてたけど、今もめちゃくちゃ痛い……"
"そんなに? どこに入れたの? 俺は鎖骨に入れたけど"
"うーん……秘密かな"
"秘密?"
"うん、秘密。私達の夢が叶ったら教えるね"
"そっか! じゃあ消える前に早く夢叶えなきゃなー!"
"消そうとしなきゃ一生消えないけどね……"
(……そうだ。これは、一生消えないんだ)
夢を忘れるな。
その言葉は、絶対に女であるということを隠し通してヨンジュの夢を叶えるという覚悟は。夢を叶えられなくなった私に、責めるように痛みを与え続けている。タトゥーを入れたとき、涙が浮かぶくらい痛かったけれど、今の方がずっとずっと痛く感じる。涙が出ないだけで。
(……忘れない。忘れるわけないよ。だって……私の全てだったから)
「……だからヨンジュ……わたしのこと……」
タトゥーの部分を押えながら蹲る。痛みに顔を歪めながらつい出た呟きは、シャワーの音でかき消された。
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アップルパイ(プロフ) - なのこ5546さん» いつもコメントありがとうございます! 更新してすぐ読んで頂いて本当に嬉しいです。書いてる自分もしんどいな……と思っているので、早く明るいシーンまで行きたいなとなってます……🥲 これからも更新頑張るのでぜひよろしくお願いいたします。 (8月4日 3時) (レス) id: a55c9bddea (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - 最新話読みました!思わず、ナナー!!!!って叫んじゃいました😭アップルパイさんの小説大好きなのでこれからも更新楽しみにしています💘 (8月2日 7時) (レス) @page22 id: 2327b9d39c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アップルパイ | 作成日時:2023年7月24日 22時