【WT】君が笑える未来がいい (ページ12)

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10「弧月」ページ12

『戦闘体活動限界』

なんでこんなことになったんだっけ。
弧月によって躊躇なく切り落とされた首が宙を舞うのをかんじながら、場違いなことを考えた。

あの後は結局寝付けなくて射撃訓練をして朝を迎えたのを覚えている。そして昼前に起きてリビングに降りたら何故か太刀川さんが1人優雅に茶を飲んでいて、口を開くやいなや「よしランク戦するぞ」と言い放ったのだ。

トリオン体(再生する身体)のくせに記憶が走馬灯の如く頭の中を駆け巡るのがなんと皮肉なことか。

有無を言わせない語調に呑まれて思わず頷いてしまったのが運の尽きである。
この間の風間さんといい、気後れすぎだろう自分。

『5本先取勝負終了勝者太刀川』

「逃げんなよ」

飛ぶ間際に耳が言葉を拾う。
「何から」とは言えなかった。機能するかもわからない口許を動かす前に私の体はブースへと移転してしまったのだ。

転送された体が緊急脱出(ベイルアウト)用に備え付けられたベッドに深く沈む。

それから勝敗が記録された端末パネルを見つめ、大きなため息をついた。

5対1。それが私と太刀川さんの数字で表された戦力差。防衛任務をこなすだけの私と、最前線で戦い続ける精鋭の違い。

戦闘結果が表示された画面を閉じようと手を伸ばした時、ボイスチャットへと画面が切り替わった。表示されたのは桁外れのポイントが記載された弧月。言わずもがな太刀川さんだ。

「お前、弱くなったな」

鈍器で頭を殴られたかのような衝撃。
歯に衣着せぬその物言いに、目的を失いだらりと下がった手に力がこもる。

「エンジニアの真似事でもしてるからか？いつまで経ってもチュームだって組まないし、中途半端な事ばっかりしてるんだったら辞めちまえよ」

“4年前はもっと強かったはずだろ”

太刀川さんの口から発せられる声だけが頭の中で反復して回る。喉の奥が酷く乾く。私にもっと力があれば彼は形見(風刃)を手放さずに済んだんだろうか。

「いつまで迅の影に隠れてるつもりだよ」

力がほしいとこんなにも強く思ったのは以来だろう。このままじゃいけないのは嫌という程理解していた。

"お前は迅にはなれないよ"
頭の奥で有栖川さん(亡き師)の声がする。