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運命の出会いなんて信じてなかった。
奇跡なんて信じてなかった。
信じられるものは自分自身と、努力と結果。
ただそれだけだった。
俺は小さな頃からフィギュアスケートを習っていて、たくさんの大会に出て、優勝することも少なくなかった。
この世界ではそこそこ有名にもなったし、それはたくさんの努力をしてきた自負もあって、まだまだもっと上を目指したいと思っていた。
俺は、大好きなフィギュアができて、未来も明るく、恵まれていて、とても幸せなはずだった。
……でも、それと同じくらいの不安といつも隣り合わせに生きていた。
今まで手にしたもの全部、この手からすり抜けていくような、漠然とした不安と焦燥がつきまとう。
成長すると、フィギュアはますます難しくなる。体のバランスはもちろん、大人としての表現力も要求される。
俺も今年は17歳になろうとしていた。
周りからも、もう少し色々な経験をして、情緒面を豊かにした方がいいとアドバイスされる。
たくさんの経験をしないと、表現力は身につかないそうだ。演技に、そんなの必要なのか?って思うけど……。
みんなに言われると、焦りが生まれる。
手っ取り早く色んな経験をするなら、彼女を作ってみるとか、とも言われた。
彼女は何度かいたことがあったけど、ハッキリ言って面倒くさかった。
どうしたって俺はフィギュアのほうを第一に考えるし、そっちの方で頭がいっぱいの時に会ったりメールとか電話とかできない。
自分勝手だと言われたこともある。だから、もういいやって思ってた。
……でも。ちょっとだけ、フィギュア以外のことを考えてもいいかなって、思うようにもなっていた。
大人のスケーティングっていう壁に当たって、逃避したいってひそかに思っていたし、……何より今の俺は、確かなものにすがりたかったのかもしれない。
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作者名:mirin | 作成日時:2020年4月5日 17時