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俺はあの日、一颯くんが遊びに来る日にAを家に呼んだことを、正直後悔してる。
でも……どこかで感謝もしてるんだ。
一颯くんとAが出会ったことは……きっと大きな意味があったんだ。
俺とAの出会いなんかより、きっともっと、ずっと奇跡に近かったと思う。
あのキス以来、前ほど照れずにAさんに電話やメールができるようになった。
その日も俺は、フィギュアのクラブが終わったロッカールームで、Aさんと電話をしていた。
「次の休み、何も用事なかったら、奏多くんち集合しない?」
電話の向こうのAさんの声は、ちょっとくすぐったい。
『行く行く。今度は何かお土産持ってくね』
「マジで!?じゃあね……実用的かつ、うまくて、栄養があるもの持ってきて」
『…………思いついた。任せて!」
「楽しみー!」
『じゃあ奏多くんちに日曜10時ね』
「ちゃんと来てくれるかなー?」
『いいとも〜!』
……相変わらずな俺たちだった。
通話を切る。ふう……。
恋人同士の会話っぽくはないけど……。楽しいからいっか。
「Aちゃん?」
奏多くんがニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。
「まあね。日曜来てもいい?」
「そりゃいいけど……」
「ちょっと待った!」
ロッカールームのベンチに仰向けになって寝ていたと思った一颯くんが、すごい勢いで起き上がった。
「な……何!?」
「ゆづる〜〜〜!誰、Aちゃんって?」
奏多くんが、俺より先に勝ち誇ったように答えた。
「ゆづの彼女で〜す」
「いつの間にだよ!!!うわぁ!!」
一颯くんが勢いのあまり派手な音を立ててベンチから転げ落ちた。
そんなに興奮しなくても。
「ちょっと大丈夫?」
仕方なく腕を掴んで立たせてあげると、一颯くんはまだ同じことを聞いてくる。
「だからいつからだよ〜!」
「ちょっと前。……一ヶ月くらい前?かな?」
「そんなもんじゃない?」
奏多くんが頷くと、一颯くんは、うらめしそうに俺を睨む。
「なんだよ……!この裏切り者が……!!」
一颯くんはフィギュアで培ったジャンプ力で、さっき転げ落ちたベンチにびょんと飛び乗った。
いちいちリアクションが激しい子なのだ……。
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作者名:mirin | 作成日時:2020年4月5日 17時