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◇◇◇
俺とAはあの時恋人同士になったけど……なんだかぎこちなかったのを覚えてる。
週に何回か電話したり……メールしたり……そういうことが死ぬほど恥ずかしくて、直接会うほうがよっぽど楽だった。
俺もAも、どうしてもこみ上げてくる罪悪感をお互いに見せまいと必死だったね。
でもあの頃……俺たちは、ほんとによく、笑ってた。
次の日、俺の妙な機嫌のよさに、リンクで会った奏多くんは敏感に反応した。
「……ゆづ、なんか浮かれてない?」
内心ドキっとしたけど、平静を装った。
「……そう?どこが?」
「なんとなく? わかりやすいから」
す、鋭い。ていうか俺ってわかりやすい?
ん〜……ここはきちんと話してお願いしとこう。
外でデートとかは絶対無理だから、かといって本宅に連れていくなんて家族がいて絶対嫌だし、てことは、これからちょくちょく奏多くんの家に連れてくることになるんだろうし。
あーやっぱ……なんか照れくさい。
「……彼女ができました」
「おー!よかったじゃん、おめでとう!」
からかったり皮肉ったりしてくるかなって思ってたけど、奏多くんはめちゃくちゃ綺麗な笑顔でそう言ってくれて……。
うわ……なんか……すごくやりきれなくなった。奏多くんの笑顔が優しくて……。
めでたくなんかないんだよ。ほんとは。
「ありがと……」
「でも……そっか、ゆづ好きな人いたんだ。全然気付かなかった」
俺は奏多くんの言葉に、苦笑するしかなかった。
Aさんを愛しいと思う気持ちは……確かにあるんだと思う。でも、それは一種の錯覚みたいなものだ。
俺はAさんを恋愛の対象として、最初からそういう目で見てるんだから。
俺はAさんにも、奏多くんにも、自分の気持ちにも、うそついてる。
それでも俺は、Aさんと恋愛していこうと決めたんだ。
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作者名:mirin | 作成日時:2020年4月5日 17時