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◇◇◇
俺たちが「偶然」会ったあの場所は、
緑と綺麗な花がいっぱいの公園の前で、
いつもやさしい風が吹いていた。
「奏多くーん! 何か服貸してー!」
せっかくの休みなのに朝っぱらから上がり込む俺に、奏多くんはとても不機嫌だった。
「ゆづ〜……なんだよ、こんな早くから……。服ぐらいいっぱい持ってるじゃん……」
「俺の私服って、俺ってバレやすいんだよね。それにちょっと大人っぽくしたいし」
「誰と出かけるんだか。まぁいいや。勝手に着ていけば?」
「ありがとー!」
俺は笑ってごまかし、奏多くんと一緒に朝食をとって、奏多くんちの風呂に入って、奏多くんの服に着替えた。
奏多くんはまだパジャマ姿で眠そうにソファに座っていたけど、ばっちり着替えた俺に、改めて不審げな目を向けた。
「……なんか気合い入ってる? ゆづ」
「え……そう?」
深く帽子をかぶる。これも奏多くんのだ。たぶん高いやつ。
「……デート? 昨日の紹介してもらった子のどれか?」
「ちがうちがう」
俺は笑って首を横に振る。
それで出会ったわけじゃないから違うもんね。
「あやしいなぁ、ゆづ。彼女できたら、俺にはちゃんと報告しなよ?」
「はいはい。じゃ、行って来るね!」
「今日は本宅に帰る? うちに戻ってくる?」
「いったんこっち戻るよ! そんなに遅くなんないと思う」
「じゃ、和子さんにゆづの分の夕食も作って貰っとくね」
「うん!よろしくー!」
和子さんというのは、奏多くんの家の食事担当の家政婦さん(64歳)のことだ。
掃除と洗濯担当の家政婦さんも別にいて、奏多くんのお世話をしてる。
基本的に家政婦さんは奏多くんが学校に行ってる間に来て済ませて帰ってるみたいだから、あまり会わないらしい。
そしてついでに俺も……ごはんとか泊まったときの着替えの洗濯とか……知らないうちに結構お世話になってる。
「じゃ、行ってきま〜す」
「行ってらっしゃい」
俺はのんびりと奏多くんのマンションを出た。
あれ、ちょっと緊張してるような……。
歩きながら、考える。
俺は、あの子を恋人にできるのかな?
あの子と付き合って恋愛を経験して、思い通りに上手に大人に変わっていけるのだろうか。
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作者名:mirin | 作成日時:2020年4月5日 17時