君と描く物語１２

＃５６６ ページ16

有一郎side

珍しく遅い時間に家を留守にしていた無一郎と話したあの日、俺はずっと疑問に思っていた事を問い掛けた…


＿有一郎｢俺には理解出来ないな…確かに俺達を見分けられるのは驚いたけど、それくらいだろ｣

ある時期から無一郎は少しずつ変わり始めた…
きっかけが何かなんてわかってる

あの交流会での出来事

無一郎が仔犬みたいに懐くその人は、俺にとっては "俺達を見分けられる、ちょっと他とは違う人"程度の認識で…

それは正直、今でも変わらない

今まで両親以外 完璧に見分けの着く人は居なかったから物珍しさに惹かれたのだろうと思い
無一郎が何故そこまで懐くのかなんて深く考えもしなかった

どうせ直ぐに飽きるだろうって…

だけど違った

あの人に逢いに行く度に、無一郎は今まで見た事ないくらい生き生きとした表情を覚え
それまで家族以外に心を閉ざしてたとは思えない程 明るくなった


俺はそんな無一郎を傍で見てきて、一体どんな奴なんだと少し興味が湧いた…

今思えば単純に羨ましかったのかもしれない

同じ双子でも、無一郎は俺の知らない感情を知り
それまで過ごしていたのとは、まるで違う景色が見えているんだろうって…

でも素直にそれを認められなくて、意地の悪い言い方でしか尋ねる事が出来なかった

口にしてしまってから、自分が慕う相手を見下す様な発言に怒ってくるかと少し身構えたが

その人と 何かあったのだろう…
無一郎は静かに…何かを思い返すように口を開いて俺に言った

＿無一郎｢…あの人は……僕にとって世界を彩ってくれるフィルターなんだ｣

＿有一郎｢…は？｣

＿無一郎｢先輩と一緒に居るとさ、それまでモノクロだった世界が一瞬にして花が咲いた様に色付く

それまでどうでも良かった事も、全部大切に感じられるようになって…
どんな事も無駄な事なんて一個も無いって事を気付かせてくれた

眩しくて…でも触れたくて…真っ直ぐで嘘が無くて暖かくて…

僕 先輩に出逢って初めて、家族以外の誰かの幸せを心から願ったんだ｣

そう口にした無一郎は、泣きそうなのに幸せそうな顔をしていて
誰かを心底愛した人間は、こういう顔をするんだなって無意識に思った


今だって、無一郎への気持ちを答える時も
素直に答えてしまったら、都合の良い関係だと罵られるかもしれないと言うのに

無一郎の身内である俺に馬鹿正直に答えたこの人は、お前の言う通りの人間だな…

有一郎｢…無一郎の事で頼みがあります｣

A｢頼み…？｣

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