君と描く物語１２

＃５６５ ページ15

アオイ｢え…じゃああの子お兄さんの方…？｣

カナヲ｢本当にそっくりだね…｣

A｢うん…でも、やっぱりあれは有一郎くんだ…｣

どうしたんだろう…何で三年の教室に……

珍しい訪問者に戸惑っていると有一郎くんと目が合い、その瞬間…

有一郎｢…｣ﾍﾟｺｯ

A｢…！｣ﾍﾟｺｯ

会釈されて、反射的に私もそれに返すと
有一郎くんはゆっくりと教室内に歩いて来て私達の目の前で止まる

何事かと戸惑っていると、先に口を開いたのは有一郎くんの方で…

有一郎｢あの…突然すみません、少し時間いいですか｣

A｢はい…｣



誰も居ない中庭…吹く風は頬を冷たく撫でるそんな空の下で

有一郎｢…｣

A｢…っ｣

まともに会話した事も無い人と二人きり

それも相手は無一郎くんのお兄さんの有一郎くんって…一体私に何の用なんだろう……

有一郎｢…あの｣

A｢はい…！｣ﾋﾞｸｯ

有一郎｢急に訪ねてすみませんでした…無一郎の居ないタイミングを狙うのが難しくて

今日はあいつだけ予定が入ったんで今しか無いかと…｣

少し俯きつつ、出会ったすぐの頃の無一郎くんの様な静かな声でそう言った有一郎くん


それは…つまり……

A｢無一郎くんには聞かれたくない話って事…？｣

有一郎｢……先輩は、あいつの事をどう思っていますか？｣

A｢え…｣

それまで逸らしていた視線を、しっかり私に向けた有一郎くんは
変わらず感情の読めない表情のまま私に尋ねる

…無一郎くんの事を…どう思っているか……

それは簡単に答えるには難しくて、でも決して言葉にできない訳ではないもので

A｢……大切に思ってるよ｣

有一郎｢…｣

真っ直ぐな視線に応える様に、私もまた…有一郎くんに真っ直ぐ向き合いそう告げた

A｢……でもそれが、無一郎くんが欲しいと思ってる形と違う事も知ってる…｣

それを知ってる上で、それでも無一郎くんの傍に居る私は
有一郎くんからしてみれば、最低な奴に思えるかもしれない

大切な弟の気持ちを弄んで、都合良く傍に置いてるって…

そう罵られる覚悟で告げた事実
でも、ここで嘘はつきたくないから

お姉ちゃんや小芭内さんが私の事で真剣に考えたり怒ったりしてくれるのと同じように、有一郎くんが今ここにいるのは
無一郎くんの事が大切だからなんだと思うから…

暫くの沈黙…
何を言われるのかと身構えて居たけれど…

有一郎｢ﾊｧ……本当に、素直な人なんですね｣

A｢………え？｣

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