君と描く物語１０

＃４７５ ページ25

真っ直ぐな無一郎くんの視線

その目を見ていたら、自然と口が動き出した…

A｢…実は私、進路の事で悩んでて…皆には地元に残るって言ってたし
ずっと私もそのつもりで進路ガイダンスやオープンキャンパスに参加してたんだけど…

ある大学の見学に行った時、そこが凄く魅力的だって心惹かれた場所があった

…でもそれは、全く視野に入れてなかった…県外の大学だった｣

無一郎｢…！県外…｣

A｢うん…でも、そこは規模も大きくて…科の創設もまだ新しから倍率も高い

在籍してる生徒の作品も、どれも想像力を掻き立てる物ばかりだったし…教授も とても有名な芸術家で

知れば知る程 心が引かれると同時に…
こんなに凄い所に行っても、私なんかじゃ埋もれちゃうって思った

何より、地元を……先生の傍を離れるなんて考えられなかった｣

無一郎｢…｣

A｢でもこんな情ない事、先生には言えなくて…

その大学に見学に行った事すら黙ってた
でも どこからか情報を聞いたみたいで、どうして志望しないんだって問い詰められた

私、本当の事言えなくて…苦し紛れな言い訳 並べて…

でもきっと見透かされたんだと思う、自分に自信の無い私を…｣

無一郎｢…先輩｣

A｢見透かした上で…私の事、もう好きじゃないって…
今の私には魅力感じないって言われた

だから先生が悪い訳じゃなくて…｢A先輩…！(無一郎｣


私の言葉を遮る様に、依然 私の両頬を包み込んだままの無一郎くんが私の名前を呼んだ

無一郎｢先輩…もういい…大丈夫、わかったから…だから｣

A｢…｣

無一郎｢…無理して、笑わなくていい｣

A｢……え｣

無一郎｢先輩、ずっと無理して笑顔作って…僕の前でくらい弱い姿見せてよ…支えさせてよ｣

言われるまで…全く気付かなかった……

無一郎｢先輩…泣いちゃ駄目だって思ってない？｣

A｢…っ…何で…｣

何で…わかるの…？

だって、私に泣く資格なんて無い…
こうなったのは私が弱かったからで、自分が撒いた種だから

私が泣くのは違うって…思…って……


ｷﾞｭｯ

無一郎｢泣いていいよ…泣いていいから…｣

A｢…う…っ……｣ｸﾞｽｯ

無一郎くんの体温に包まれた瞬間、堰を切った様に溢れ出した涙は
まるで今までつっかえて取れなかった痼が一緒に流れ出ていくようで

今まで誰にも言えなかった事を、どうして無一郎くんには話せたのかわからないけど…

独りじゃないよと、そう言って貰えた気がした

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