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「……まぁ、それでもAがすきなのは俺なんですけど」
加藤さんがそう言って私を見た。
目が合って、また笑う。
「……加藤さんにとって、すき、とは?」
「何?なんか高尚な話しようとしてる?」
「いいえ、確認です」
「ふふ、なんの?」
「言葉の意味をお互いにはっきりさせておかないと、あとで必ず齟齬がうまれます。価値観の推測も兼ねています」
「……それって実質テストじゃん」
加藤さんはそう言って笑いながら前髪をぐじゃーって触った。
ダイニングの椅子に座って背もたれに寄りかかったたまま、立ってる私を見上げる。
「……すき、とは?なんだろ?別に変な意味じゃなくて、単純に体が近くにあるとうれしい、とか?あんま頭は使ってない、勝手に心と体がAに反応するかんじ」
「……体が」
「いやだから変な意味じゃなくて!」
加藤さんは笑って、言葉を続けた。
「俺も確認していい?」
「はい」
「Aにとって、すき、とは?」
「……わかんない」
なんてね。
加藤さんと同じだよ。
心と体が勝手に反応する。
理性がきかないほどのどうしようもない想いをずっとずっと悶々と持て余してきたんだから。
でもそんなこと軽く言えなくて、黙る。
「はあ?人に聞いといてずるくない?」
「……考えときます」
「ついでにそのすきの定義にぴったりはまる人物がいたら、そいつ誰だか教えて」
「……言葉の確認の域を越えてません?」
「Aがすきなのに報われない俺を慰める気持ちがあるなら、適当な世間話でいいから答えてくれたらいいのに」
加藤さんは憂鬱そうにそう言ったあと、席を立って「汗かいたからシャワーかりる」って言った。
背中を見送りながらちょっと笑う。
距離感間違えてる?とか言ってたのに、職場の後輩んちで酔ってもないのにシャワー浴びてちゃだめじゃん!
加藤さんじゃなかったら本当にだめだよ。
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ぺんぎん(プロフ) - 素敵なお話ありがとうございます。お話の中の一人一人が丁寧に描かれていて、ほんとうにほんとうに素敵です。これからも応援しています。 (2020年3月4日 1時) (レス) id: f15aa4c564 (このIDを非表示/違反報告)
すもも - 完結おめでとうございます!いつもこっそり拝見しておりました(笑)じぇにさんの作品はどれもひらがなと漢字の使い分けが絶妙で、ニュアンスがとっても丁寧に伝わってくるところが大好きです。新たなじぇにさんの作品に出会える事を願いつつしばらくこの作品に浸ります。 (2020年1月28日 23時) (レス) id: 7bc6073c03 (このIDを非表示/違反報告)
もか - いつも楽しく拝読しております!主人公ちゃんの不安や怖がりな部分と、それでも弱いだけだったり気持ちが揺らいでるわけではない芯の強い部分がようやく報われたような気がして、このまま幸せになってほしいと感じました、、これからも楽しみにしています! (2019年12月28日 0時) (レス) id: 729ed0c340 (このIDを非表示/違反報告)
あやぽにょ - やっとですね(;_;)よかった、、、! (2019年12月18日 1時) (レス) id: f2bcd42dc1 (このIDを非表示/違反報告)
yume.(プロフ) - 初めまして、いつも楽しく読ませて頂いてます!増田くんのストーリーから読んでいて、この物語は主人公ちゃんの名前を若菜にして読んでるのですが、加藤さんの幼馴染の名前を自分にしたくて名前の設定を増やして貰えませんでしょうか、、、? (2019年12月15日 19時) (レス) id: 28edb9fce5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◯じぇにー◯ | 作成日時:2019年11月5日 21時