28…side N ページ28
顔を上げて、必然的に目が合う。
(……………えっ……キミは……)
薄らいだ記憶の奥底に眠ってた今も変わらないその瞳。
(………あの時の………)
汚れのない、透き通った瞳。
ホント一瞬。たった一瞬目が合っただけなのに。
淡い青春時代のトキメキが昨日のことのように蘇った。
あの時もそうだった。
運命だと感じたのはほんの一瞬の視線の絡み合い。
隣には愛しい人がいるってのに
オレは………。
オレがそのことでボヤッとしてる間に
詩乃と家族たちは
「よかったねー」「うん、ありがとう」なんて楽しそうに笑い合ってて。
自分だけ異空間にいる気がしてならなかった。
運命って…こーゆうのじゃないじゃん…。
何年か経って再会するときって普通ならもっとドラマチックじゃん。
なのに何。
結婚を決めた相手の妹って。
残酷って言ったらアレだけど。
少なくともこんな形で再会したくなかった。
「そろそろ帰ろっか」
彼女が笑ってそう言う。
「…あ、うん……」
ぎこちない笑みを浮かべて曖昧な返事を返すオレ。
けどまぁ、彼女がそんなオレの様子なんて気にかけるわけでもなく。
当たり前のようにオレの手を取る。
最後、帰り際。チラッと盗み見すると、何がそんなに面白いのか、大口を開けて笑ってた。
詩乃と二人、最寄り駅まで歩く、真夏のアスファルトの上。
容赦なく照り付ける太陽の陽射しの下。
寄り添う汗ばむ手と手。
「……あっついね」
「そー、だね…」
「溶けそう」
「…ふふ。オレも」
ついさっきまで、この繋がれたお互いの手に温もりを感じていたのに。
今はなんでだろう。
汗ばむくらい暑いのに、そこに温もりが感じられなかった。
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作者名：AMY | 作成日時：2017年6月5日 8時
