君のことが… (ページ4)

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その夜、都内にある大きな映画館で奈々はアルバイトをしていた。彼女の主な業務はシアター内の清掃や宣伝用の大きなポスターの掲出など、ホール内の仕事が主であった。

「で、友達に言っても全く聞いてくれないんですよ。どう思います？」

　客が退席した後のカランとした劇場内を清掃しながら、奈々は先輩の高畑翔也に尋ねた。

「まあ、遅刻しそうになったのは奈々ちゃんも悪いわけだし仕方ないんじゃない？」

　箒と塵取りを手に、食べ溢されたポップコーンをはわきながら翔也は答えた。

「先輩までそう言う…」
「でも俺の学校にもいたよ。そういう、なんか"仕切りたがり"な人。そういう人は常に何か言ってないと気が済まないんだよ」

　大学生である彼の言葉は、奈々の心にすんなりと受け入れられた。

「そういうもんですかね…」
「それにその子、奈々ちゃんに嫉妬してるんじゃないかな？」
「"嫉妬"…？」
「奈々ちゃんは個性的だし魅力があるから、きっと羨ましいんだよ。だからきつく当たっちゃうんじゃない？」

　掃除を終えた彼は、箒の持ち手に顎を乗せて、話を聞く彼女の基へ爽やかな笑顔で近づいてきた。その笑顔に、奈々はドギマギと動揺を隠せなかった。

「わ、私に魅力なんて、ないですよ･･･」
「そんなことないと思うけどな。さぁ、次のシアター行くよ」

　ポンと奈々の頭を撫でた彼は、優しい笑顔のまま、劇場内を後にした。奈々は込み上げる笑みを唇を噛んで押し殺しながら、彼の後を追った。