君のことが… (ページ6)

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その日、生徒会室で一人、資料の制作を行っていた彩希は、ふと窓の外の校庭を見てみた。校庭では生徒たちが様々な部活を行っていたが、とりわけ目立っていたのは、一直線に走って行く陸上部の姿であった。

「7秒42、着実に縮めてきているな、岡田」
「はぁはぁ…、ありがとうございます…」

　黄色いウェアを着た上半身を上下に揺らしながら息を切らす奈々は、陸上部顧問の大竹寛に褒められていた。

「このままのペースで行けば、インターハイまでには調整できそうだな」
「頑張ります…！」
「無理のない程度に。よし次！」

　他の選手の邪魔にならないよう、トラックの端に避けた奈々は、ベンチに座り呼吸を整えていた。
　息を切らしている彼女のもとに、陸上部マネージャーの小栗有以がドリンクボトルを手に駆け寄ってきた。

「奈々さん、お疲れ様です！」
「あっ、ありがとう」
「足…、大丈夫ですか…？」
「ん？あぁ、もう平気平気！ほぼほぼ回復してるから、心配ないよ！」

　数ヶ月前、奈々は短距離の練習中にアキレス腱を断裂したことがあった。病院にも通い、リハビリを繰り返しての復帰であり、次のインターハイ出場を賭けた大会は彼女の復帰戦でもあった。

「あまり無理しないでくださいね。奈々さんは私たちの希望でもあるんですから…」
「ありがとう。ゆいゆいは優しいね」

　笑顔でドリンクボトルを受け取り、一気に飲み出した彼女の横顔を、有以は黙って見つめていた。
　そんな様子を遠くから見ていた彩希は、何故か胸の辺りがざわざわして仕方がなかった。