strawberry candle (ページ24)

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幸せの時計ページ24

有岡side
無惨な姿になりブルーシートに包まれて救急車で搬送されていったご夫婦

2人にはたった一人の家族がいる事が分かった

まだ3歳の娘だ

だからか…さっき電話に誰も出なかったのは

俺は許可を得て、直接Aちゃんに接触した

丁度テラスでウトウトしていたAちゃんにそっと声をかけた

不審者に思われるかなって不安に思ったけど

良いのか悪いのかAちゃんは俺を全く警戒しなかった

それからAちゃんは、俺に色んな事を教えてくれた

優しくて、料理が上手で、いつも優しく抱きしめてくれるママ

力持ちで、面白くて、肩車をしてくれるパパ

「私ね、パパの事もママの事も大好き！あと涼介の事も大好き！」

『涼介？』

「ふふッ好きな子なの！」

向日葵みたいな笑顔を見て、俺は真実を言えなくなった

言いたくなかった

「ねえ！私この車乗ってみたい！かっこいい！」

興味津々でパトカーを見つめるAちゃんを後部座席に乗せ

俺は施設に連絡した

丁度雨脚が強くなり始めた頃だった

「ねえ！パパとママは？？」

一番聞かれたくない事だった

『今日は帰って来れないんだって

　だから僕が、優しいお兄さんの所に連れて行ってあげるね』

「そっかあ…ママとパパ早く帰って来ないかなあ…」

Aちゃんは３歳児には見えなかった

知らない道、知らない車、知らない男

強い雨の音

風で木々が揺れる音

雷の音

幼いながら何かを我慢していた

家から持ってきた大きなテディベアをしっかり抱きしめて

「自分は一人じゃない」と言い聞かせているような気がした

子供らしくなかった

でも施設に着き、俺が帰ろうとしたところで

子供になった

雷が鳴り響き、風が空気を切り裂き、矢のように雨が降る中

彼女は初めて泣いた

純粋な…怒り

悲鳴混じりのその声を

俺は全身で抱きしめた

今はきっと理解できないであろうパパとママの気持ちを

全てからだの温もりに込めた

ご両親の手が、しっかりと家族３人の写真を握りしめていたこと

頬に涙の跡があったこと

最期の最期まで君の事を想っていたこと

彼女の体力の限界はすぐに来て

眠りたくないと必死に訴えていた目は力なく閉じた

『傘…今更ですけど』

「ありがとうございます…」

『では、Aちゃんはこちらでお預かりします』

中間さんはそう言ってAちゃんを抱き上げて戻って行った

この嵐は悲しみに飲まれたAの心の映しのような気がした