五話:ホームステイ ページ7
「すみません、お待たせしてしまって…！」
キャリーケースを引きながら、駅の出口で待っていてくれた、ご夫婦の姿を見つけたので、そう言いながら駆け寄る。
暗めのジーンズと焦げ茶色のシャツを着たがっちり体型の男の人と、すらりとした脚に明るいジーンズが似合う、白いシフォンシャツを着た女の人が、仲睦まじそうに話しながら待っていた。
目印に、私のキャリーケースと同じ山吹色のコーヒータンブラーを持っておくわ、と言ってたからすぐに分かった。
旦那さんがシャンクスさん。奥さんがマキノさん。
「あなたがAね」
「はいっ！ 篠宮Aです、よろしくお願いします！」
優しそうな人たちだ。しかも美男美女。
私のドイツ生活は、好調なスタートを切った。
…さっきすられたのはノーカンだ。
二人と並んで歩きながら、駐車場に向かう。
こうも背が高い二人と並んでいると、日本では結構背の高い部類に入るはずだった160後半の私も、チビに見えるのだから不思議だ。
「なんだか娘ができたみたいで嬉しいわ。半年だけだけど、よろしくね」
「はいっ、お世話になります！」
「そんなに堅苦しくならなくてもいいんだぞ！」
シャンクスさんにばしばしと肩を叩かれて、結構痛いので苦笑いを零す。
駐車場はすぐそこだったけど、その短い道のりの間にも、ドイツの街並みが目に飛び込んできて、西洋特有のおしゃれな建物の外装に、ワクワクが止まらない。
私、今日からこの街に住むんだ…。
二人に街の軽い紹介を受けながら、駐車場につくと、シャンクスさんは「あの車だ」と指をさす。
「わぁ！ビートルだ！」
かわいい赤のビートル。私はペーパードライバーなので、運転とかしたことないけど、車買うならフォルクスワーゲンって決めてる。特にビートルは可愛くて大好きだ。
テンションが上がって日本語をポロってしまい、シャンクスさんとマキノさんに笑われてしまった。
「はっはっは！ そんなに好きなのか！」
「は、はい！ フォルクスワーゲンのデザインが好きで…」
「よっし、じゃあこれからいっぱい乗せてやる！ マキノと三人でドライブに行こう！」
イ ケ お じ ！
「じゃあ荷物、乗せちゃいましょうか！」
「はい！」
マキノさんの手伝ってもらいながら、重たいリュックと、でかいキャリーケースを車の後部座席に乗せ、その隣に自分も座る。
すぐにエンジンがかかり、ゆっくりと車が動き出した。
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作者名：弥生 | 作成日時：2020年12月3日 0時
