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Aside
「ーーー連絡先、教えてもらえませんか」
顔を真っ赤にして、下を向いて、少し震えた声で。
背の高い常連のお客様は、私にそう言った。
「え………」
「えっと、嫌ならもちろんいいんですけど、」
「あ、そうじゃなくて……」
……本当に、私に？
だって彼は、ただのよく来てくれるお客様なんかじゃなくて。
来るたびに女の子のお客様が遠目からきゃあきゃあ言うような、モデルみたいな人だから。
すらっと背が高くて、身体は薄くて、その上すごくお洒落で。そんな人がただの一店員の私を前に、緊張して立っている。
近くで見ると、いつもびっくりするくらいかっこいい。ちゃんと笑顔で対応するようにはしているけれど、お帰りになった後は緊張から放たれていつも大きく息を吐くくらい。
「えっと……私の、ですか……？」
ほかの店員さんに決まっていると思い、一応そう聞いてみる。私みたいな冴えないのじゃなくて、もっと華やかな子がこのカフェにはいるから。
「……はい、斎藤さんのを」
だけど彼ははっきりと、私の名前を告げた。ネームプレートから知ってくれたのかな。
苗字とはいえ、彼の口から私の名前が出たことにドキドキとうるさいくらい心臓が鳴る。
どうする。どうしよう。
正直今は、あまり男性と普通に接せる自信がない。お客様ならなんともないけれど、プライベートの付き合いとなると……
……あんなことがあった後だから。
お断りしようと、したときだった。
愛想良く振舞わなければならないカフェ店員のイメージの私だから、この人にもこんな気の迷いが生じてるだけで……普段の私なんて、地味でつまんない女だ。
………だけど。
『ーーーーいつまでもそんなんじゃダメ！
別に恋人関係じゃなくてもいいんだから、ほかの男と触れ合って忘れなきゃ！』
大好きな親友の愛のあるお説教が、頭の中に響いた。
そう、かなあ。そうしないと私、立ち直れないかな。また、前みたいになれるかなあ。
喉元まで出かかった「ごめんなさい」の言葉を飲み込み、私はお客様に向き直る。
「……………はい」
嬉しそうに笑ったその人を前に、罪悪感でちくりと胸が痛んだ。
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作者名：ミズ | 作成日時：2018年11月21日 0時
