この偶然は ページ7
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｢どうせならさ、AA水着が良かったよね。｣
｢それ俺も思った！逆に何も着ないってのもありだけど。｣
｢流石にやばくね、それ！｣
｢いやいけるっしょ、だって誰とでも寝るんでしょ？｣
｢じゃあさ、この中で誰が一番最初に相手してもらえるか賭けね？｣
隣のクラスから不意に聞こえてきた男子の会話。教室のドアが開いているせいで、通りたいのに通れない。
どうしてこんな事を言われなきゃいけないんだろう、なんて気持ちはもう既になかった。慣れた、気にならない、平気。そう言い聞かせることで麻痺してしまったんだと思う。
｢なあ、北人もやろうぜ。｣
｢僕はいいよ。｣
｢なんでだよ、ノリ悪いなー。｣
｢…そもそも、それってただの噂でしょ？そんな恰も本当のことのように言うのよくないでしょ。｣
｢いや、ここまで来たら噂通り越して事実でしょ。｣
｢僕は、そういうの好きじゃないんだ。本人から聞いたことしか、信じたくない。…それに、｣
"誰かの価値を下げるようなこと、言ったらダメだよ。"
『っ、』
話したこともないのに、どうして。壱馬達は別だけど、私のことを何も知らない人が守ってくれたのは初めてだった。
その時、まだ顔もはっきり分からない、"ほくと"という名前しか知らない彼を好きになった。あんなに男の子が怖いと思っていたのに、簡単に恋に落ちてしまった。
＿＿＿＿＿＿ ガラッ
慎｢あ、やっときた。もー、遅いよA、｣
『っ、私…、私ね、好きな人が出来た、』
壱｢…は？｣
樹｢え、どういうこと？え、誰？｣
『隣のクラスの、"ほくと"くん。』
慎｢ほくとくん？……誰？｣
樹｢さあ？｣
壱｢A組のやつ、か。｣
樹｢壱馬知ってんの？｣
壱｢いや。けど、お前らが知らないならA組しかないやん。｣
一年の頃は、私と壱馬がB組で、まこっちゃんといっちゃんはC組。多分彼はそこまで目立つ生徒でもないし、別のクラスの私達は誰も、どんな人なのか知らなかった。
それからまこっちゃんが主となって彼の情報を集めてくれて、"吉野北人"というフルネームを知った。まこっちゃんのクラスの岩谷翔吾くんと同じ中学で、バスケ部だったこと、そして彼女いない説が濃厚だということも。
好きな人と断言したくせに、ゼロ距離から縮めることは出来ず、冬を越え春を迎えた。
そしてやっと、ゼロから一歩抜け出すことが出来たのだった。
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作者名：noa | 作成日時：2021年2月22日 17時
