胸の鼓動を ページ4
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｢でもさー、やっぱ意外だよね、Aさん。そんな風に見えないのに。｣
｢なにが？｣
｢北ちゃん知らない？ほら、超がつくほどのビッチだって。｣
｢ああー…、そういえば聞いたことある。｣
確かにそんな風には見えなかった。とは言っても僕はAさんとまともに話したことはないし、なんならさっきの会話が初めましてだと思う。
ただAさんの悪い噂は、一年の頃からよく耳にしていた。友達の彼氏を寝取ったとか、毎日違う男と遊んでるとか、いつも一緒にいる三人ともそういう関係だとか。クラスの男子も言ってたっけな、一回だけでいいから、とか。
着席を促しながら新しい担任が教室に入り、僕達もその後に続いて黒板を見て気付いてしまった。そこには、"進級祝いです。好きな席に座ってください"の文字。
新担任の粋な計らいに喜ぶ生徒しかいなかったとは思うものの、僕と翔吾は教室の外で川村くん達の観察をしていたせいで、既に二つ以外の席が埋まってる。空いているのは、廊下側の一番後ろと、窓際の真ん中、Aさんの前の席。
どちらにしようかと見比べた時、ふとAさんと目が合って、パッと逸らされてしまったことが気まずくて、廊下側の席にしようと思ったのも束の間。既に翔吾が走って向かい、ごめんと言わんばかりの顔の前で手を合わせた。
樹｢ねえねえ、昼食べたらペットショップ行っていい？｣
『またマースのおやつ？』
樹｢正解。そろそろ新しいの補充しないと。｣
慎｢あ、最近肥えたの樹のせいじゃない？｣
壱｢確かに。マース前より太ったやろ。｣
樹｢太ってません。ちゃんと管理してます。｣
仕方なくAさんの前の席に座ると聞こえてくる後ろの会話。僕の後ろがAさんで、その隣に藤原くん。そしてその後ろが長谷川くんで、その左隣、Aさんの後ろが川村くん。
この教室全体を教卓から見た時、右後ろだけ相当華やかだと思う。
少し担任の話を聞き、お決まりの自己紹介の時間。苦手なんだよな、これ。進むにつれハードル上がるし、特に言うことのない僕の番で白ける様子が想像できる。
そして廊下側から順にスタートし、あっという間に自分の番が来てしまった。
｢…えっと、吉野北人です、｣
慎｢え！？｣
｢え？｣
慎｢…あ、ご、ごめん！なんでもない！｣
勇気を振り絞ってやっとの思いで名前を言った瞬間、後ろの席から聞こえてきた声に思わず振り返ってしまった。
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作者名：noa | 作成日時：2021年2月22日 17時
