ただ君の ページ16
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壱｢はい、目開けてええよ。｣
｢なにこれ、なんのテスト？｣
壱｢この質問を聞いて、頭で考える前に浮かんだ人が、今自分が一番幸せにしたい好きな人、なんやって。｣
｢…え、？｣
壱｢さーて、北ちゃんは誰やったんかなー。｣
目を細め悪戯に笑う壱馬の横には、明らかに動揺してしまっている僕がいた。
意識してない僕が頭に浮かべたのは、Aちゃんだ。本当に、もしこの質問の結果がそうなんだとしたら、僕はAちゃんのことを。
そうだとしたら全て辻褄が合う。翔吾と壱馬の"なんで"の理由も、答えられる。
壱｢…なあ、北人。俺さ、結構お前のこと好きなんだよね。｣
｢ありが、とう。｣
壱｢真っ直ぐで、正直で、本当に良い奴やって思う。だから俺も、お前には正直でいようと思って。｣
｢…うん。｣
壱｢せやからはっきり言うわ。…中途半端なことしてAのこと傷付けんのだけは、やめてな。｣
意味が分からなかった。中途半端なことの意味も、僕がAちゃんを傷付けるということ意味も。
何もかもが分からなかったけど、ただ壱馬の顔は真剣で、まるで今の僕にそういう要素があるかのように思わせた。
壱｢ま、そういうことよ。じゃあ、俺行くわ。｣
｢え、いやちょっと、今のどういう意味？｣
壱｢あ、ちなみにさ、｣
＿＿＿＿ 俺もAやったわ、浮かんだの。
壱馬は少し歩いたあと、わざわざ振り返り真っ直ぐ僕の目を見てそう言い残し、帰って行った。
僕はしばらくその場から動くことが出来なかった。壱馬の"俺も"という言葉が頭から離れなくて。
言ってないのに。Aちゃんが浮かんだなんて、一言も言ってないのに、壱馬ははっきり"俺も"と言った。
それはつまり、壱馬にとってAちゃんが、一番幸せにしたい好きな人ってことだ。
｢…だめだ、全然眠れなかった。｣
壱馬と別れた後、家に帰ってもずっとそのことが頭から離れず、案の定かなりの寝不足。
あんな話をされた後だから、壱馬に会うのもちょっと気まずいけど、それよりもAちゃんに会う方が、今の僕にはしんどいかもしれない。
翔｢北ちゃーん！｣
｢翔吾…、おはよ。｣
翔｢おはよー！って、顔やば！なに、夜更かししたの？｣
｢まあ、…そんなとこ。｣
翔｢怪我はしてるわ、クマはひどいわ…え、大丈夫？｣
｢どうだろ、大丈夫じゃないかも。｣
今は怪我より気持ちの方が、正直全然大丈夫じゃない。
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作者名：noa | 作成日時：2021年2月22日 17時
