９５話 ページ45
・
「すみません、窓を開けてもらえますか？」
「あ、はい。外暑いですけどいいですか？」
「はい。俺、夏が好きなんです」
看護師さんが開けてくれた窓から、珍しく蒸し暑くない、ちょっとだけ爽やかな風が病室に吹き込んでくる。
不思議なことに、
俺は間違いなくジヨンに刺されたというのに、命を落とさなかったようだ。
外からの照りつけるような日差しや、風を感じながら、少しずつ自分が生きていることに実感を得ていく。
…なんせ、死ぬ覚悟だったから。
なんだかおかしな気分だ。
だけど。
自分の手のひらを窓から見える空に掲げてみる。
ああ、俺は…生きている。
『ソクジン…？』
「…A」
聞こえてきた声に病室の扉の方を見ると、
今にも泣きそうな顔をしたAがそこに立っていた。
「何、お前。どうして戻ってきたの？」
『ソクジンに伝えたいことがあったの。
ていうか、何泣いてんのよ』
「…え？」
うわ、嘘でしょ？
Aに言われて初めて、自分が泣いていることに気がついた。
頬を流れ落ちる涙を拭い、心配そうな顔をする彼女に笑ってみせる。
「命があることに感謝してたんだよ。
俺って幸運だよね」
『…本当に？』
「本当」
『普段涙なんか見せないくせに』
「うるさいな。じゃあもう泣いてない。さっきのはAの見間違い！」
『嘘つき』
じとっとした目で俺の顔を見ながら近寄ってきたA。
ていうか何。
さっきちょっといい感じで別れたっていうのになんでこいつ戻ってきたの？
「伝えたいことって何？俺もうAを怒らせることなんてした覚えないけど？」
『違う。そういうんじゃなくて』
「じゃあ何」
『…、
あー、もう。
なんでいつも言いにくい空気を作るかなーソクジンは！』
「…え？」
何怒ってるんだよ。
…いや、泣いてる？
目にいっぱいに涙をためるAを見て、ベッドにあずけていた身体をがばりと起こす。
痛っ！傷口痛い。
「…なんで泣くんだよ。…どうした？」
『…っ』
「言ったじゃん。
俺、Aが泣くのを見るのが一番辛いんだよ。
だから…、」
『じゃあなんで…』
「え？」
『なんで、自分の命を投げ出そうとしたのよ』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1885人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しのん。 - とっても面白かったです。こういうお話が書けるの本当に尊敬しまふ！お二人の作品はとても好きなので、お二人のコラボ作品と知って読んだら、明日朝早くからお仕事なのに、最後まで読み切ってしまいました！本当に面白かったです！また新作楽しみにしてます！ (2022年8月10日 4時) (
レス) @page49 id: 5420faf554 (このIDを非表示/違反報告)
KB - ミロさんとまゆう。さん、どっちも最高です!!! (2021年9月20日 23時) (レス) id: 5f0961fe40 (このIDを非表示/違反報告)
coral(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました、ほんとに感動しました。是非またお二人のコラボ作品を出して頂きたいです！ (2021年9月7日 20時) (レス) id: 76a1fad787 (このIDを非表示/違反報告)
わたし。(プロフ) - 映画化してほしい。なってもおかしくない！ (2021年4月5日 17時) (レス) id: 373e34b3f9 (このIDを非表示/違反報告)
chi-(プロフ) - 涙目で霞みながら最後まで読みました。素晴らしかったです。ユンギもユンギっぽくてニヤけてしまった。グクのことを思うと辛いけどほんとに良いお話で読んで良かったです。ありがとうございました。 (2020年11月28日 19時) (レス) id: c1d012338f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：君色。
x他1人 | 作成日時：2020年8月13日 22時
