おはなし ページ24
・
1週間後。重々しい装飾が施された扉をノックして、私はホグワーツの中できっといちばん面白くて美しい部屋に足を踏み入れた。
「ダンブルドア先生、」
「ああ、Aくんかね」
校長先生はゆったりとした動きで振り返ると、優しく目を細めて微笑んだ。
「遅れてすみません。廊下が混んでて……」
「今日は寮対抗のクィディッチ杯じゃ」
「校内が賑わうのも当然じゃろうて」
「お、おっしゃる通りで……」
ダンブルドア先生と向かい合って話すのははじめてで、その何もかも見透かすような瞳を見ていると変な汗が出そうだった。
「あ、あの、校長……」
私は俯きながら手のひらをぎゅっと握った。鉛のように重い私の心と相反するように、外からは湧き上がるような歓声が聞こえている。
「……転校の手続きについてかね？」
少し悲しそうな口調で私に問いかけたダンブルドア先生に、私はかすれた声で「はい」と頷いた。
「ふむ…………」
「ホグワーツの長い歴史の中で、この学校を辞めた者はあっても他の魔法魔術学校に移ったものはそういない」
ダンブルドア先生の声は優しかった。顎の髭を撫でながら、「Aくん」と私の名前を呼ぶ。
「して君は祖国に帰ることを望んでいるのかね？」
この前の夏休み、日本に帰省した私に両親がもちかけてきたのは「やっぱり二年度から『魔法処』に転校しないか」なんて、私にとってはありえなくて、でもお母さん達は限りなく本気な、そんな話だった。
私は目頭が熱くなるのを感じながら、小さな子供のみたいに何度も首を振った。
「私は……私はこの学校が大好きです」
「大切な友達だってたくさんいて……だから……」
ほの薄暗い教室、暖炉に火が灯るあたたかい談話室、個性豊かで面白い先生たち、寮の友達、それと、マルフォイくん。まだ一年しか経っていないのに頭の中に思い浮かぶのは楽しかった思い出ばかりで、今更ホグワーツを去るなんて考えられなかった。
「本当は転校なんてしたくない、です」
競技場からひときわ大きな声が上がる。ダンブルドア先生は私の言葉ににっこりと微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 412人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねこ(プロフ) - この出会いにありがとう さん の花言葉の意味がとっても素敵で相手のことをとっても大切に思っているのが伝わってほっこりしました(՞ ܸ. .ܸ՞)︎♡ 素敵な作品をありがとうございます.ᐟ.ᐟ (11月20日 0時) (
レス) @page44 id: 2eaa5d84c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - ぽんずさん» コメントありがとうございます！素晴らしい賞を頂けて嬉しいです…！笑 ぽんず様こそお身体に気をつけて、これからも更新を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。 (2023年3月17日 22時) (レス) id: be1363d7b2 (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず(プロフ) - 初めまして！このお話の更新が出てるととっても嬉しくて毎話キュンキュンしてます！ホグワーツでこれがやりたかった夢大賞No.1ですありがとうございます！！！ご自愛ください！ (2023年3月17日 21時) (レス) @page46 id: 7bdddba4b2 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 雨中と猫。さん» ありがとうこざいます！ほのぼの柔らかい雰囲気を目指して書いていたのでそう言っていただけてとっても嬉しいです…！遅筆ですが更新を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。 (2023年3月2日 21時) (レス) @page8 id: be1363d7b2 (このIDを非表示/違反報告)
雨中と猫。(プロフ) - 本当に今さっき作品を見つけて読まさせて頂きました新参者です……！マルフォイくんとの緩やかでほのぼのとしていながら心があったかくなるお話がめちゃくちゃ可愛くて素敵です！続き楽しみにしております、お身体壊さない様更新頑張ってくださいー！！ (2023年3月2日 21時) (レス) @page23 id: d60c007837 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ハル | 作成日時：2023年2月26日 0時
