１５ ページ33
「今日はな、実はええ報告があって来たんや。
今度の商売がえらう儲かってな。
やっと、Aをこの鳥かごから出してやれる事になったわ」
「そんな・・・
西條さんに、そんな事して頂く理由がありません。
奥様やお子様に、またあらぬ疑いをかけられてしまいます」
「ええねん。
僕がAにそうしてあげたいねんから。
本音では、僕の妾にと、願うてるけど・・・
見返りは求めへん。
お前が幸せになってくれればそれで」
「そんな・・・
私はここを出ても行くあてなどありませんし・・・
３年後の年季までおらせてもろた後も、
このまま花街で女中でもやって、
生きていくつもりです」
先日、叔父が流行病で亡くなってしもて。
男の子は生まれずじまいやったから、
私の弟の唱太郎が、
お嫁さんをもらって家を継ぐことになったと、
先日、手紙を頂いた。
唱太郎は、この春、
２年ほど勤めた小学校を退職して、
油屋さんの仕事に尽力してると言う。
花街帰りの姉がいると分かったら、
唱太郎の縁談も潰れてしまうやろう。
今更、厄介になるわけにもいかへん。
隆平さんとは、あれ以来、会うてない。
置屋のお母さんと、
隆平さんの父上様が、
私との仲を疑うて、
ここの配達には、
若い使用人を寄越すようにならはってん。
手紙も取り次いでもらわれへんまま、
年月だけが無情に過ぎた。
今頃はもう、
可愛いお嫁さんをもらって幸せに暮らしてはるに違いない。
芸妓上がりの私には、
行くあてなどどこにもないねん。
「僕の家に来たらええ。
本宅とは別に、
京の外れに屋敷を構えたんや。
そこでのんびり、
暮らしていけばええ。
生涯かけて口説くわ。
そのうち、僕に傾くこともあるかもしれへんやろ」
シガレットの火を消して、
西條さんが、私をまっすぐに見つめはった。
「そんな、それでは奥様は・・・」
「妻とは親同士が決めた結婚で、
愛などない。
妻の方も同じはずや。
Aが命をかけて愛した男は・・・
今、どうしておる？
まずはそれを確かめてからやな」
簪を己の喉元に突きつけた私を、
西條さんが止めてくれはったあの夜。
意識を失うた私は、
隆平さんの名を、
うわごとのように呟いてたらしい。
「それはもうええんです。
きっと今頃、幸せにしてはると思うから・・・」
確かめるのが怖い。
隆平さんに奥様があられたら・・・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 488人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えびふらい(プロフ) - 初コメ失礼いたします。君がため。1〜7まで一気に読み、すごく感動して涙が止まりませんでした。大変素敵なお話を読ませて頂いてありがとうございます。このような素敵な作品に出会えたこと大変嬉しく思います (2018年7月18日 17時) (
レス) id: 794b86f166 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - こんにちは。お久しぶりです。連休中にもう一度1から一気に読み耽っていました（笑）ふと、残りのメンバーが主役のお話はないのかな…と思ってみたり…。。 (2018年4月30日 10時) (レス) id: 419abfddfe (このIDを非表示/違反報告)
ぴい(プロフ) - 君がためシリーズ、お疲れ様でした！本当にこのシリーズが大好きで、楽しみにしておりました。わたしは大倉くんがすきなので大倉くんの話も大好きですがやはりトップバッターのすばるくんのお話も大好きです。これからも楽しみにしております！ (2018年4月16日 0時) (レス) id: e2e2d488d0 (このIDを非表示/違反報告)
めちゃ(プロフ) - シリーズ完結お疲れ様でした。どれも本当に素敵なお話ばかりでした。ただ今日はもう一日中泣いています。何を聞いても何を見ても思い出に繋がってしまって。でも会見のすばる君はかっこいい凛とした大好きなすばる君でした。また新しい作品でお会いしたいです。 (2018年4月15日 22時) (レス) id: e1be3f0f63 (このIDを非表示/違反報告)
ひみさ(プロフ) - 完結まで公開して頂きありがとうございます まだまだ心の整理がついていませんが… また色々な作品でお会いしたいです (2018年4月15日 21時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：fool x他1人 | 作成日時：2018年4月6日 14時
