君がため。６

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昔々、僕がAに宛てて、
駆け落ちの決意をしたためた手紙を、
この人が橋渡ししてくれはったんを思い出す。


この人は、幼馴染の舞妓はんへの一途な想いを貫いてはるかと信じておった。


あれから随分と年月が流れた。


今、目の前で僕をまっすぐに見てるこの人は、

人の恋人を略奪するような、
非道な人間には見えへん。


「Aは、元気にしておりますか？
ずっと気になって・・・」


それでもやはり、
この人への嫉妬心が声に滲み出てしもてかもしらん。


「僕にも分かりません。
Aちゃん、行き先も告げずに、
京の街を出て行ってしもたから。
人の噂では大阪で、
酒を出す店を始めて、
えらい繁盛してるて聞きます。
けど、Aちゃん、
いつか京の街に戻って来るつもりやて、
翠茶房があったあの建物。
真田の爺様が売り払うてしもたんを、
また買い戻すらしいて・・・」


隆平さんの言葉に、
胸がざわつき始める。


「翠茶房を・・・
今、大阪におるて、
それはほんまですか」

思わず詰め寄るように聞いてしもた。


「噂やから何とも言えませんが・・・
Aちゃんが大倉はんに何を言うたんか知りませんけど、そんなん、本音やないです。
あなたの将来を思って・・・
身を引いたんやて思います」


「そんな・・・
僕にはあなたに心変わりしたと、
そう言ってました」


「そんなわけないやないですか。
僕らはずっとええ友達です。
やのにその友達の僕にさえ、
迷惑かけたないて思い詰めて。
何もかも一人で背負って出て行ったんです」


「康子ちゃんが生んだあの赤ちゃんは？」


赤子を抱えてさぞ大変やと心配してた。

僕とAとで、
養女として育てていこうて、
勝手に決めておったのに・・・



「去年の暮れ頃、
田舎に引っ込んでた千代ちゃんの父親が、
落ち着いたからと引き取りに来たんです。
実の親と暮らす方がええと、
Aちゃん、
泣く泣く引き渡しはって・・・
その後すぐに真田の家を売り払って、
弟の大吉くんだけ連れて、
雲隠れしたみたいにおらんなってしもたんです」

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