君がため。６

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聞かずとも、
忠義さんの許嫁のお嬢さんやて、
気付いてしもた。


「真田、Aさんですか？」


その人は、
私を一目見て、
戸惑ったような表情をされた。


忠義さんの恋人が、
このような醜いおなごやて、
想像だにしてなったんやろう。


痛いほど、
彼女が抱いた憐れみを感じて、
自分が惨めで、
思わず目を伏せる。


「私は藤原紫保子と申します。
大倉家の次男さん、
忠義さんと、婚約中の者です」


そう言って、
差し出された菓子折りを手にした華奢な手は、

まるで胸のブローチの真珠のように真っ白で輝いてた。


この人と一緒にならはった方が、
忠義さんはお幸せになれる。

それが至極当然やと、
どなたもそう思われるやろう。


「なんの御用でしょうか？」


千代ちゃんを布団に寝かせて、
胸のブローチを握りしめて、
聞き返した。


守りたいのは、
大切な想い出だけ。


それだけしか今の私には望まれへん。


「いえ、あの・・・
大変、申し上げにくいんですが・・・
忠義さんから身を引いて頂けませんか。
私は、本心から、
忠義さんのことを尊敬して、
お慕いしております。
ですからどうか・・・
あの人の幸せを思って。
Aさんの方から、
別れて頂けないでしょうか」


上品でお優しそうな方。


こんな方なら、忠義さんもきっと、
いつか、惹かれていくに違いない。


「ご心配なさらなくても、そのつもりでいました」


こんな私とおっても、
忠義さんは不幸になるだけ。


今の私を、
愛してなどくれるはずもない。


「ありがとう存じます。
お話はそれだけです」


そうおっしゃって、
背中を向けかけた紫保子さんが、
健やかな寝息をたててはる千代ちゃんに視線を落とした。


「・・・可愛い赤ちゃんですね」


優しさで包まれた、
見え隠れする同情心が、

紫保子さんが去った後も、
私の胸をずっとしくしく泣かせた。

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