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トタンの家の中に駆け込んで初めて。
蒔田のおっちゃんに殴られた唇の端が切れてんのに気付いた。
「あほやな。
章ちゃんは。
私のためなんかに、
こんな事、せんでええのよ」
A姉ちゃんが細い指でその傷に触れる。
不思議と痛みは感じひんかった。
「なあ、姉ちゃん、
こんな仕事、やっぱ辞めよ」
また一からやり直せばええねん。
俺はA姉ちゃんとおれるなら、
貧乏も耐えられるし、
大好きな歌もギターも、
手放したかって、かまへん。
「章ちゃん、
そんなことしたら、また飢えるよ？
今度こそ死んでまうかもしれん」
じっと俺を見つめてるA姉ちゃんの瞳から、
涙がぽろぽろこぼれた。
戦争が終わった、
日本が英米に負けたあの日から、
A姉ちゃんが泣くんを、初めて見た。
「けど、そのうちクビになるんやろ？
姉ちゃんは、あいつの妾にならへんから」
「そうかもしれんね」
姉ちゃんが、なんでもないように言うから。
得体の知れん不安に襲われた。
「なんで笑うん？
俺が絶対にそんなことさせへん。
何してでも姉ちゃんを守ってみせるから」
気付いたら、俺もぽろぽろ泣いてた。
A姉ちゃんは、
俺のお母さんとは、
血が繋がってへん。
子供の頃からそれはなんとなく感じてた。
やから俺とは半分だけ繋がってる。
けど、半分なんかとちゃう。
俺とA姉ちゃんは、
全部が全部、一緒や。
自分の分身みたいに感じる事がある。
なんで、俺ら、姉弟やねやろ。
なんで、俺、まだ子供やねんて。
「大丈夫。
姉ちゃんは魂までは売らんから。
章ちゃんはなんの心配もしなくていいの」
困窮に付け込んで、
A姉ちゃんに言い寄る男は、
ウジ虫みたいに、
後から後から湧いてくる。
それ、俺が知らんとでも思うてるん？
俺の自慢の、
べっぴんで、
優して、
そんで、
誰より心が綺麗な、A姉ちゃん。
学もなくて、
頼れる親類縁者もおらん俺らが、
持ってるんは、
この身体だけやって、
そんなこと、子供の俺かて、
分かってるけど・・・
「俺は飢えてもええよ。
そや。
この指輪を売ろ？
そしたら、しばらく暮らせるやろ」
首飾りにして、
肌身離さずつけてるお父さんとお母さんの結婚指輪を、かざして見せる。
A姉ちゃんは、
もう一つ、宝物、持ってる。
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みき(プロフ) - やすくんの君がため。また読みにきちゃいました(//∇//)色んなやすくんをfoolさんの作品で読ませて頂けて幸せです！ (2020年11月20日 21時) (
レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 焼き直し、ありがとうございます。新しい作品として読めました！切なくて、でも2人の愛をすごく感じました！ (2019年11月7日 16時) (レス) id: ad46af1069 (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - 焼き直しで初めて読んだので、私にはありがたかったです。切ないけどハッピーエンドで良かった！ (2019年10月30日 22時) (レス) id: a8bccc7358 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 焼き直し、お疲れ様です(*^^*) 新鮮な気持ちで読ませて頂いてます♪ (2019年10月28日 21時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
ぷーかは年中無休。|´-`)(プロフ) - すばるくんの話、感動で泣いてしまいました…とてもいい作品でした… (2018年3月26日 23時) (レス) id: cb0b6d334f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：fool x他1人 | 作成日時：2017年9月18日 6時
