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もう少しずつ、
考える事も億劫になって、
何にも感じなくなった、

3日目の夜。


「A、聞こえるか?」


かすかに、亮兄様の声が聞こえた。


明かりとりの小さな窓に、
愛しい亮兄様の姿が見える。


窓枠の格子に、その手をかけてくれたから、
慌てて、荷物の上に爪先立ちして、
その手を握りしめた。


自分のした事が急に恥ずかしくなって、
でも離れたくない。


亮兄様の温度を感じてたい。


「こない冷えてもうて。
その中は寒いやろう。
可哀想に」


心配そうに言うて、
反対に私の手を包み込んでくれる。


格子の隙間から覗くだけの、
愛しい人の姿を、
この目に焼き付けておきたくて。


瞬きする事さえ、惜しい。


私の手の甲に、
亮兄様は、そっと、口付けて・・・


それから、
着物の袖から取り出した、
キャラメルと、
新しい手袋を、
私の手に握らせて下さった。


「お前の輿入れ(こしいれ)の日が決まった・・・」


亮兄様が押し出すように口にされた言葉は、
私を絶望に突き落とした。


「銀行屋の村上さん、知ってるやろ?
再来週、
あの人のところへ嫁に行かせるて。
お父さんが・・・」


子供の頃に何度かお会いした。

気の大きな、面白い方やった。


あんな年上の方のところにお嫁に行くん?

確か、一昨年、奥様がお亡くなりになった。


あの人やなくても、
どんな人でも。


亮兄様でなければ、
死んだも同じ。



「A、逃げよう・・・」


亮兄様が、
低く掠れた声で呟いた。


「亮兄様・・・?」


「何もかも捨てる。
この家も、家族も。
俺はお前がおればそれでええ・・・。
村上様には事情を話してあるねん。
輿入れの日、
こっそりお前を逃がしてくれるて、
言うてくれはった」

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みき(プロフ) - やすくんの君がため。また読みにきちゃいました(//∇//)色んなやすくんをfoolさんの作品で読ませて頂けて幸せです! (2020年11月20日 21時) (レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 焼き直し、ありがとうございます。新しい作品として読めました!切なくて、でも2人の愛をすごく感じました! (2019年11月7日 16時) (レス) id: ad46af1069 (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - 焼き直しで初めて読んだので、私にはありがたかったです。切ないけどハッピーエンドで良かった! (2019年10月30日 22時) (レス) id: a8bccc7358 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 焼き直し、お疲れ様です(*^^*) 新鮮な気持ちで読ませて頂いてます♪ (2019年10月28日 21時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
ぷーかは年中無休。|´-`)(プロフ) - すばるくんの話、感動で泣いてしまいました…とてもいい作品でした… (2018年3月26日 23時) (レス) id: cb0b6d334f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:fool x他1人 | 作成日時:2017年9月18日 6時

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