君がため。

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今では、それが、晴美ママの口癖になってしもた。


「俺、もう行きます。
すぐに撮影やから・・・」


A姉ちゃん、

俺、夢、叶えるから。


いつか、姉ちゃんに胸張れる男になれるように。


生涯、姉ちゃんを愛してく。


A・・・


幸せになれよ。


愛してる。









それからの２年は無我夢中やった。


戦後すぐの動乱の時代が過ぎて、


日本じゅうが、
明るい未来だけを信じて、

突き進んでいける時代が到来した。


「章大の音楽は、
人々に夢を与える」


それが丸メガネのおっさん、
福田社長の口癖。


あれから何本かの映画に出た。


レコードも出して、

その歌を引っさげて、

全国を回る日々。


俺の歌、

A姉ちゃんの耳に届くように。


いつもそれを、願いながら・・・




うららかな春の日。


ステージを降りた俺んとこに、
今までにないぐらい興奮した社長が、
駆け寄って来た。


「章大！章大！えらいこっちゃや。
テレビの仕事が決まったで！」


俺が歌手になりたての頃、
やっと街頭に現れたテレビ。

最近になって、
少しずつ、
普通の家にも普及し出した。


あの箱の中に俺が入る。

そんな時が来るなんて・・・


「東京に事務所ごと引っ越すで。
すぐに支度や」


社長が俺の肩を、ガシッと抱いた。


東京・・・

そんな遠くに・・・



「社長、引越しはいつ？」


「明後日、いや明日やな」


「・・・分かった。
その前に会いたい人がおるねん」


最後に一度だけ。


Aに会いたい。


今の俺を、知って欲しい。


見ててくれてる？


A・・・


幸せ？









A姉ちゃんは、

船場のおしゃれなブティックで、
働いてるて。


晴美ママの年賀状に書いてた。


その店は、もちろん、
旦那さんの村上さんが経営してはるって。


パリに直接買い付けに行って、
日本では流行の先端を行く店。


あの人は時代を生き抜く目を持ってる。


あんな人が旦那さんなら、
A姉ちゃんは、
きっと幸せにしてる。


一目、見るだけでええ。


言葉なんか、交わさんでも・・・


ただ、一目。


会いたくて・・・








ガラス張りの瀟洒な店構え。


A姉ちゃんは、
流行りのストライプのブラウスに、
膨らんだ水色のスカート。

首元にはスカーフ巻いて。


まるで、人形みたいに美しい。


けどもう人形なんかやない。

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