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「そこへ座りなさい」
背を向けて首だけ少し回し、相変わらずの威圧感ある声でそう言われる
A「…っ……失礼…します…」
逃げ出したい気持ちを押し殺して、汗がじんわり滲みそうな手をぐっと握り締め
言われた場所にゆっくりと腰を下ろして正座する
「…」
A「…っ」
どうして……こうなっちゃったんだっけ…
ついさっき、天元さんのお父様に廊下でぶつかって
倒れそうになった所を支えてもらって……
−−−−−
「……ん?…君は…どなたかな…」ギロッ
一目見て直ぐに天元さんのお父様だと気付いた
でも どうして……今日は居らっしゃらないって……
居るはずの無いと思っていた人物と鉢合わせた事と、その相手が結婚の挨拶について一番危惧していた張本人だと言う事に焦りと驚きが隠せない
けど黙ったままじゃ駄目……何か…何か言わないと…っ
A「あ…の……私、天元さんの……っ」
「…!」ピクッ
私が天元さんの名前を口にした瞬間、微かにお父様の眉が動いた
「………天元の……そうか………」スッ
A「…っ」
支えてくれていた手をすっと引いて、急に背中を向けて何かを考えているのか少しの沈黙が流れた
私はどうしていいのか分からず戸惑っていると…
「少し……いいだろうか?」
A「え…っ」
−−−−−
そして、ついて来なさいとだけ言われて…断れるはずも無くついて行くと
通されたのは家具らしい物と言えば机が一つあるくらいで
他は一切 物は無く、ただ掛け軸や生け花だけが飾られた 厳かな和室
私が座ると、お父様はすーっと部屋の一片の襖を左右に広く開いた
襖が退くと一面に中庭の木々が顔を覗かせ、夏とは思えない程優しい静かな風が部屋を抜けた
私をこんな場所に連れて来て、一体どういうつもりなんだろう…
さっきだって天元さんの名前を出しただけで、私の名前もここに来た理由も一つもまだ話せていないのに
せめて名前くらいは……
A「あの……「あいつも……天元も来ているのか…?」
A「……え…?……あ、はい…っ……一緒に………
こちらには、天元さんに連れて来て頂きました…っ」
「……そうか」
依然 こちらに背を向けたままだけど、静かなその声で私に尋ねてきて 私はそれに慌てて答える
天元さんは、お父様とあまり分かり合えてないと言ってた
実の親子である天元さんですらそんな状態なのに、初対面の私が何の話をすればいいのか…
名乗るタイミングすら失っていたその時…
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レモネード - よかったねぇ〜〜夢がついに叶ったんだね。( ω-、)もうこれでいつでも同じ場所にいれて、景色も一緒に見られるんだ。今まで辛いこともあったけど、めげずにここまでやってきたんだし、もう大丈夫だよ。 (2021年11月15日 1時) (レス) @page50 id: 029fc8293f (このIDを非表示/違反報告)
momoko19960430(プロフ) - レモネードさん» 天元さんの甘々加減には、周りも一緒に赤面物ですね(^^)そして、夢主がずっと目指していた夢がやっと現実に……これで天元さんと同じ場所で同じ景色を見られますね!ずっと頑張ってきて良かった…!努力は必ず報われますね! (2021年11月13日 21時) (レス) id: 97219a3715 (このIDを非表示/違反報告)
レモネード - 梅ちゃん〜、本当に有言実行だね。それにしても、すぐ気づくなんてすごいなぁ。周りのことを気にせず、褒めてくれるなんて、本当に天元さんらしいですね。夢主ちゃんも恥ずかしい反面、嬉しかったりするのかなぁ。(’-’*)♪ (2021年11月13日 0時) (レス) @page49 id: 029fc8293f (このIDを非表示/違反報告)
momoko19960430(プロフ) - レモネードさん» 夢主を信じて、黙って見守ってくれた天元さんの優しさと暖かさが格好良いですね!そして、有言実行の梅ちゃんが天元さんに爆弾発言させてましたね(^^; あそこで堂々と褒める辺りが流石天元さんと言うか…笑 (2021年11月12日 21時) (レス) id: 97219a3715 (このIDを非表示/違反報告)
レモネード - 天元さんも実はこっそりと話を聞いていたんだね。本当は間に入って自分の口から言いたかったと思うけど、夢主ちゃんも負けなかったね。そしてご両親に気にいれられるなんて、すごい。(゜∇^d)!! (2021年11月12日 0時) (レス) @page48 id: 029fc8293f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:P | 作成日時:2021年10月15日 12時