１２．微睡みの時間〜雅紀〜 ページ12
何となく、背中を撫でられているなー……
と思って、目を開ける。
ん？
Aだ。
オレの背中を撫でている。
しかも、凄く密着してる。
「まーくん」
そして、彼女は小さくオレの名前を呼ぶ。
「ん…おはよ。」
今まで抱きしめていた腕の力を緩める。
もしかして、寝ている間にぎゅーっとしてたかな。
「あっ、起こしちゃった。おはよ。」
背中を撫でる手を止めたAと、目が合った。
「…もうちょっと。」
「いいよ。」
離れそうな身体を、オレの方へ引き寄せる。
微睡むこの時間を、二人で共有したい。
「熱はどう？」
「寝て起きたら、下がったよ。」
「ほんと？良かった。」
さっきまでと同じように、抱き合ったまま話す。
いつの頃からか、Aはオレの背中に手を回したらポンポンしたり撫でてくれるようになった。
「お疲れ様」って言いながら触れてくれることもある。
オレ、あまり人には甘えない感じだと思ってたけど。
胸の奥がきゅうっと鳴って、Aにはちょっとだけ甘えてしまう。
「A…」
彼女の首筋に顔を埋める。
そばにいて欲しい人が、自分のそばにいてくれること。
彼女と出会う前は、思い出の中でしかあり得ないことだと思ってた。
「オレ、Aのベッドで寝ちゃったね。」
「ね(笑)」
あー、やっぱ可愛い。
とAのほっぺにキスしようとしたら、唇に真っ先に触れたのはマスクだった。
□
結局、二人でじゃれあった後にベッドから起き上がる。
「あ…」
先にベッドを降りて何かに気付いたAが、オレの方を見た。
「ん？」
「あー…えーと」
オレと部屋のドアを交互に見ている。
何か困ってる？
「どうしたの？」
「お母さん…母が、仕事から帰って来てるかもしれない。」
Aのお母さん？
「まーくんのことは家族に秘密にしてるから、今まで、親には『彼氏がいる』としか説明してなくて…」
明らかに慌てている彼女の話を聞き、伝えようとしていることが何となく予想出来た。
「オレ、帰る時に一言ご挨拶するよ。」
落ち着いて話す。
玄関にオレの靴があるから、Aと一緒にいることはバレていると思うし。
「へ？！え、でも」
「初対面だからちょっと整えていかなきゃ」
「今のままだと寝起きだしねー」と、上の服の裾をパンパンと手で払う。
「大丈夫…？」
Aは上着を羽織り、オレの服にシワがないか確認している。
こういう時が来ることを、オレはどこかで予想していたんだ。
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西 - この方角に福があるはずです
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作者名：おちょう | 作成日時：2017年10月10日 22時
