神様がくれた最高の薬 (ページ5)

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Chapter 5 ページ5

ワーグナーが目を開けると、自室のベッドだった。おおかた、三弦あたりが運んだのだろう。倒れた事は不本意だったが、休むようにという思し召しだろうか…幾分か眠っていたようだ。
ふと人の気配がして、そちらに顔を向けた。
見覚えのある後ろ姿…
「…姉さん…？」
小さな声でその人を呼ぶと、ゆっくりと振り返った。
「ごめんね、お姉さんじゃなくて」
「A、さん…？」
少しばかり重たい体を起こし、Aの方を向く。
「どう？少し楽になった？」
そう言ってAはベッドの縁に座った。首筋にそっと手を当てると"まだちょっと熱っぽいかな"と言って、近くのテーブルに置いてあったペットボトルを手に取る。コップにスポーツドリンクを注ぐと、優しく微笑みワーグナーに手渡した。
「喉渇いたでしょ？これ、飲んでね」
手渡されたものを一息に飲み干すと、汗をかいて渇いた体に染み渡る気がした。
「どうして、Aさんが…」
ワーグナーは空になったコップを何気なく見詰めながら、Aに問う。
歌苗が見舞いに来るであろう事は、容易に想像できた。だが、Aは仕事もしているから忙しいだろうし、何より自分に対して歌苗のような姉弟程の情があるとは思えない。
「私、みんなの看護師さんだから、かな？」
Aは少し茶化したように笑ってみせた。
確かにその通りだが、"看護師"と言う言葉にワーグナーは業務的な響きを感じる。
「どうせ姉さんに言われて来たんでしょ」
「私が行きたいって言ったんだよ」
「だったら、仕事の延長？こんな事して僕の機嫌を取ろうとしたってムダだから！」
捲し立てるように言ったワーグナーは、その拍子に咳き込んでしまった。その背中を優しくさするA。
「私は看護師だけど、今日は仕事じゃない。ワー君がみんなの事をどう思ってるかは分からないけど…私はワー君が辛い時に側に居たいと思ってるよ」
俯いていた事と咳で口元を覆っていた事で表情はうかがえないが、Aが諭すように言うとそれ以上の反論はない。
ワーグナーはぎゅっと目を瞑ると、思わず泣きそうになってしまった顔を背けた。