遭遇 ページ5
そういえば鬼になってもう5ヶ月くらいたったのか。
竹はまだ噛めないけれど、ずっと噛む力を鍛えた成果が出たようで、木くらいは食べられるようになった。
しかも、草の味とかもちょっとは分かるようになった気がする。まだまずいけど。
人を避けるのも、だいぶ慣れてきた。ケモノと人の足音とか匂いの違いが、ちょっとずつ分かるようになったからだ。
ところで、お父さんとお母さんを殺したあの鬼を切ったのって誰だったんだろう。
すごく強い人だろうけど。お侍さんかな。
あ、誰か人が走ってきているみたい。逃げないと。
ひたすら足を動かす。しばらく走った。
人に出会ったら、きっと食べちゃう。それは嫌だから、毎回人が近くに来そうになったら逃げないといけない。
ん?どうやらあの人がさらに近づいてきてる。
もしかして追いかけられてる?
また走った。今度はもっと頑張った。
でも、あの人も速い。さっきよりも速く走ってる気がする。
しかも、相手の方が早く走っているみたい。
竹林に入った。どこだか分からないけど無我夢中で走った。もうかなり近い。どうしよう。
そのとき、わたしは竹を食べられないことを思い出した。
適当に竹を引っこ抜いて、いいかんじの長さに折って口に咥えた。そして、そのまま走った。竹林を抜けた。
周りにはやたら高い木がたくさんあった。
いよいよあの人との距離は縮まって、あの人の匂いがしてきた。人のおいしそうな匂いと、鉄の匂いがする。もしかすると刀を持っているのかも知れない。わたしを斬るつもりなんだろうか。
近くの木に登った。相手は、どうやら腰に刀を差しているようだった。
木の真下に来そうだったから、高い木に飛び移った。
「おい、降りてこい」
もしかして馬鹿なのかな。この状況で降りる人が一体どこにいるんだろう。
バキッ。不意に変な音がした。そして、咥えていた竹が割れた。そんなに強く噛んでたんだ。気づかなかった。
そういえば、この人刀持ってたなぁ。もしかして……
「ねえ、ちょっといい?」
「なんだ」
「もしかして、さっきわたしがいた山の、麓にある家で鬼を殺さなかった?」
「うん?ああ、アイツか。俺が一番最初に殺した鬼だな」
「ふうん」
つまり目の前にいるのは、命の恩人ということだった。
この人になら、殺されてもいいと思った。
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作者名:ユウピイ | 作成日時:2023年10月29日 18時