さよなら。 ページ38
【ASide】
元いた方向に歩き始めると、後ろから先輩が叫んだ。
「――A!」
胸が高鳴る。
期待なんてしていないけど、もう一度名前を呼んでくれた。……もう、それで充分だ。
『……これからはただの後輩として、よろしくお願いします。――
振り返るな。絶対に、振り返ったら駄目だ。背筋を伸ばして真っ直ぐに歩け。
……だけどこの角を曲がれば、もう先輩は見えない。
『…………っ、うああっ………!』
先輩には泣き顔を見せたくなかった。さっきは思わず泣いてしまったけど、あれは忘れよう。
有一郎先輩の前では、強い私でいたかった。いつも笑ってて、元気で、一緒にいるだけで笑顔になれるような存在になりたかった。
でも、もう無理だ。
今までたくさん頑張った。先輩に笑っていてもらおうと、たくさんの自分を抑え込んだ。私は強くなんてないのに、強いふりをした。
『うっ……。うあああああ……!』
だからだろうか。
これまで我慢していた分が、一気に溢れ出して止まらない。有一郎先輩との思い出が、次々に浮かび上がってくる。
入学式で、急いでいるのに保健室まで運んでくれたこと。
桐宮先輩を優しい眼差しで見つめるのを、複雑な思いで見ていた日々。
先輩が失恋したと聞いて、少しでも元気付けようと勢いで告白しに行った日。
面倒くさそうにしつつも、喋ってくれるようになったこと。
初めて下の名前で呼んでくれて、自分の名前が好きになれた。
どんなにしつこく話しかけても、ちゃんと一緒にいてくれた。
クリスマスには、二人で遊園地デートもしたっけ。……強がってたけど本当は絶叫系が苦手で、実は甘い物が大好きだって知った。
すごく辛そうな顔で私と付き合うと言ってきたことも、昨日のようにハッキリ覚えてる。
付き合い始めてからはこれでいいのか自問自答する毎日だったけど、特別扱いは嬉しかった。
先輩の新しい一面を知るたびに好きになって、どんどん期待してしまって。……本当に、本当に大好きだった。
『…………なんで、私じゃ……駄目、なんだろうっ……!』
桐宮先輩のように、好きという気持ちだけで先輩を救えたらよかった。私がいくら好きだと伝えたところで、意味がない。
だけどもし桐宮先輩が好きだと伝えれば、きっとそれだけで有一郎先輩は救われる。私もそんなふうに、先輩の“特別”になりたかった。
この一年、私の頭の中は先輩でいっぱいだった。……でも、もう終わりだ。
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【夜桜】・しーちゃん・ - わぁ…!もう感動したぁ…! (2020年8月14日 13時) (レス) id: 031218a0d7 (このIDを非表示/違反報告)
みゅう(プロフ) - 少し嫉妬しそう。ぷくー (2020年4月17日 0時) (レス) id: 5656ed0b69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんゆん - うふふうふふふふふふニヤニヤニヤにや (2020年4月9日 15時) (レス) id: 76b4a4436f (このIDを非表示/違反報告)
飴(プロフ) - やばいっ!無一郎君も好きだけど、有一郎君派に行きそう/// (2020年4月6日 21時) (レス) id: 2eacc9981a (このIDを非表示/違反報告)
レイン(プロフ) - 連載お疲れ様でした!最後凄い泣けました……(´;ω;`)これからも頑張って下さい! (2020年4月6日 21時) (レス) id: da75407877 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:karin | 作成日時:2020年2月14日 21時