時透双子が甘すぎる【キメツ学園】 (ページ30)

今日:10 hit、昨日:32 hit、合計:112,157 hit

名前。ページ30

【ASide】

『有一郎先輩、おはようございます！途中まで一緒に行ってもいいですか？』

「……駄目って言ってもついてくるんだろ」

『先輩も私のこと理解してきましたね。当たり前です』

先輩は、溜め息をつきつつも会話には付き合ってくれる。そうやって半端に優しいところを見せるから、もっともっと好きになってしまうのに。

『先輩。私、先輩のこと好きです』

「聞き飽きた」

だるそうに答える声。私が有一郎先輩と付き合えるなんて、最初から思っていない。

でもこうして私と話している間は、桐宮先輩を思い出して一人悲しむことはないだろう。

私が振られれば、代わりに傷付けば、その分先輩が悲しむ時間が減る。一秒だろうと減らせるなら、それは対価になりうるから。

『先輩』

「……何だよ」

『私の名前、覚えてますか？』

「浅野だろ」

『じゃなくて！下の名前です』

「……知らない。別に知らなくても困らないしな」

『酷い！Aです、A！！ちゃんと覚えてくださいよ。これだけ告白されてる相手の名前も覚えないなんて、失礼ですよ』

途端に、有一郎先輩は黙ってしまった。

あ、まずい。調子に乗り過ぎたかもしれない。私の名前は桐宮先輩と同じだから、先輩のことを思い出させてしまったかも。

「……あー、わかったわかった。覚えればいいんだろ」

『え、覚えてくれるんですか？』

「じゃないとお前、拗ねて更にしつこくなりそうだからな」

『あわよくば下の名前で呼んでほしいです。……なんて、流石に調子乗りすぎですよね！ごめんなさい、冗談です』

更に調子に乗ってしまった。慌てていつものように取り繕うも、恥ずかしさと申し訳なさは隠せない。

ああもう、私の馬鹿。目的は先輩を悲しいことから遠ざけることなのに、わざわざ思い出させるなんて馬鹿にも程がある！

一人で反省会を開いていると、さっきまで静かだった有一郎先輩が突然口を開いた。

「……下の名前で、呼べばいいんだろ」

『え？』

「――A」

『！？』

立ち止まり、まっすぐに私を見据えて先輩は言った。先輩から呼ばれた私の名前は甘くて、くすぐったくて、まるで宝物のようだった。

『これからも、下の名前で呼んでくれるんですか？』

「まぁな。でもただの気まぐれだから、勘違いするなよ」

『……無理です、そんなの。もっと好きになっちゃいます』

バーカ、と言って、再び先輩は歩き出した。先輩の呼んでくれた私の名前が、頭の中で反芻していた。