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メディアは連日、彼のことを報じた。
何も知らないくせに、何もかも知ったような口調で
ありもしないことを如何にも真実のように報じた。
私は、『不幸にも犯罪に巻き込まれた女』としか扱われなかった。
それはすばるが、私のことを
「その場でたまたま見つけた女。人気のない天文台に連れ込んで殺そうと思った」と供述しているからだ。
彼は私を殺そうとしたのではないなんて
正直に話したところで
きっと誰も信じてくれないことは分かっていた。
ふたりで過ごした奇妙で満たされた日々のことは
誰にも知られることなく、私の心にだけ残された。
おかしい、と気付くべきだった。
すばるが自分の姿を警察にチラつかせるためにわざと出かけたということにも
私を『被害者』にするためにいきなり首を絞めてきたことにも
彼が私を守ろうと起こした行動のすべてに、気付くべきだった。
守ってあげられなかった。
守られたのは私の方だった。
すばるの空気が馴染んでしまった家は
ひとりには広すぎて
すばるの歌声が聴こえない天文台は
どんなに星が見えてもおかしいくらいに素っ気なくて。
私は、まだすばるの温もりが残っているような気がするベッドに寝転がって
いつかの彼のように天井を仰いだ。
微笑みかけられるだけで、満たされた
名前を呼ばれるだけで、しあわせだった
隣にいるだけで、すべてだった
ああ、そうだ
何も持っていなかった私たちは
なにひとつ、欠けていなかった
そんな当たり前のことに、今さら気づいた。
ふたりでいるだけで、何もかもが満たされて
世界が彼だけで埋め尽くされて。
上の空で想い出したのは
照れたような、苦しそうな笑顔
喉につっかえた様に私を呼ぶ声
支配されているとさえ感じた手の温もり
彼の、すばるの、全部。
約束も待ち合わせもできないなら
いつか、あなたともう一度出会うために
私は、この町にいるよ
「お前は悪くない」と初めて言ってくれたあなたを
すべての罪を背負って私を守ってくれたあなたを
今度は私が見つけて、救い出してあげられるように。
『私は あいのうたで
あなたを探し始める』
あなたの歌の最後が
いつまでも焼き付いて、離れなかった。
fin
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jp0b1q(プロフ) - はじめまして！全部のお話、引き込まれて一気に読んでしまいました。緑さんのお話好きです。長編読んでみたいです！ (2017年10月17日 23時) (
レス) id: 5a2738edb2 (このIDを非表示/違反報告)
みく - これからも楽しみにしています！ (2017年8月13日 0時) (レス) id: 12fcc259da (このIDを非表示/違反報告)
みく - 秘密の恋人でとても感動して、好きになって今回これを読ませていただきました。語彙力と表現力にたけていらっしゃるので感情移入しぱなしで、本当に小説家になるべきだと思っています。錦戸君の話がとても好きです。今回のDVの話、胸がぎゅーっとなりました。 (2017年8月13日 0時) (レス) id: 12fcc259da (このIDを非表示/違反報告)
しあ(プロフ) - 初めまして。どのお話もとても引き込まれました。失楽園と罪と罰はせつなくて涙が出ました。安田さんのお話は優しく支配されるのが本当に怖かったです...錦戸さんのほうがまだマシだと思いました。これからも楽しみにしています。 (2017年3月20日 21時) (レス) id: 9ad432b9dd (このIDを非表示/違反報告)
Ossy.(プロフ) - 初めまして、こんばんは。いつも素敵なお話を楽しく読まさせて頂いてます。今回のお話で私が一番好きなのは安田くんの愛の囚人です。普段優しい人だからこそ狂気的な部分とのギャップに震えました（笑）次回のお話も楽しみにしてます。お疲れ様でした！ (2017年3月12日 0時) (レス) id: 4329435079 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：茜音
| 作成日時：2017年2月24日 19時
