１１ ページ32
・
章ちゃんは私の鎖を解いた後、いつも赤い跡のついた手首を何度か撫でる。
言葉にはしないけれど、「ごめん」とその労わるような指先が言っているようで
なんて勝手な人だろう、とも思うけれど
私をこんなにも必死に必要としてくれる彼が愛しくて。
自由になった腕で、そうっとその頭を胸に抱き込むと
章ちゃんは「わぁ」って驚いたような声をあげた。
普段、私は章ちゃんにされるがままだから
驚くのも無理はないのだろう。
「章ちゃん」
「なにぃ？」
「すき、だいすき」
こんなに拙い簡単な言葉を
彼は何よりも嬉しがる。
腕の中で私を見上げた章ちゃんは
これ以上ないくらいにその顔を崩して
私の首に顔を埋めて強く吸い付いた。
そこからはもう、章ちゃんに身を任せるだけだ。
隙間なく重なる章ちゃんの肌は熱くて、硬くて
広い肩も、しなやかな筋肉がついた背中も、綺麗に引き締まった胸も
全部私のためにあるのだと思えるだけで、空っぽだった心は満たされる。
外に出ることが許されない私の身体につけられた
数えきれないほどの所有の証。
欲を吐き出した後、ベッドに寝そべって
眠りに堕ちる寸前の私を腕に抱き込んだ章ちゃんが
前髪をかき分けて額にキスをした。
「A」
「…ん？」
はっきりしない意識の中で、かろうじてそう返事をすると
さらりと髪を撫でられて。
「俺の宝物。
絶対に手放したりせえへん」
ひとりごとのような呪いの言葉を
蟻地獄のように底なしに優しい声で紡ぐから
私はまた孤独な夢に堕ちていく。
愛という監獄へと突き落としたその手が、
孤独から連れ出してくれるのを待って
私はまた夢を見る。
fin.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1115人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
jp0b1q(プロフ) - はじめまして！全部のお話、引き込まれて一気に読んでしまいました。緑さんのお話好きです。長編読んでみたいです！ (2017年10月17日 23時) (
レス) id: 5a2738edb2 (このIDを非表示/違反報告)
みく - これからも楽しみにしています！ (2017年8月13日 0時) (レス) id: 12fcc259da (このIDを非表示/違反報告)
みく - 秘密の恋人でとても感動して、好きになって今回これを読ませていただきました。語彙力と表現力にたけていらっしゃるので感情移入しぱなしで、本当に小説家になるべきだと思っています。錦戸君の話がとても好きです。今回のDVの話、胸がぎゅーっとなりました。 (2017年8月13日 0時) (レス) id: 12fcc259da (このIDを非表示/違反報告)
しあ(プロフ) - 初めまして。どのお話もとても引き込まれました。失楽園と罪と罰はせつなくて涙が出ました。安田さんのお話は優しく支配されるのが本当に怖かったです...錦戸さんのほうがまだマシだと思いました。これからも楽しみにしています。 (2017年3月20日 21時) (レス) id: 9ad432b9dd (このIDを非表示/違反報告)
Ossy.(プロフ) - 初めまして、こんばんは。いつも素敵なお話を楽しく読まさせて頂いてます。今回のお話で私が一番好きなのは安田くんの愛の囚人です。普段優しい人だからこそ狂気的な部分とのギャップに震えました（笑）次回のお話も楽しみにしてます。お疲れ様でした！ (2017年3月12日 0時) (レス) id: 4329435079 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：茜音
| 作成日時：2017年2月24日 19時
