庭の金魚の波紋のその先 (ページ17)

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「ハッ！！」

　ガバリと起き上がると、寝汗をビッショリとかいていた。
まるで全力疾走したぐらい、呼吸も乱れていて。
カーテンの隙間から漏れ見える外と、僅かに聞こえる音から外は雨なのだと知る。
　あぁ、今日は大我の引越しの日なのにな……。

　父方、母方、両祖父母は高齢すぎて、高学年と言ってもまだ小学生の俺の面倒は見切れないと判断された。そうやって無理だと判断しておきながら親戚は誰も俺を引き取ろうとしなかった。そんな時、片膝ついて『僕のところへおいで』と優しく手を差し伸ばしてくれたのが貴臣さんだった。生前、父の『断れない性格』の相談相手だったらしい。
　霞野家で過ごす毎日は目まぐるしく、それでも暖かくて楽しくて。

「貴臣さんのために、この身を尽くします！」

　と、本人に宣言すれば、

「なら、この子を守ってあげてほしい。それが、僕へ尽くすことに繋がるから…」

　そう言って、貴臣さんの膝枕でお昼寝をするAの頭を撫でる。

「この子は僕の命なんだ…。だから、優吾。もし、この子が困っていたら疑わずに話を聞いてあげてほしい。」

　思えばきっと、この頃から霞野の生業に巻き込んだAのことを気にしていたのだと思う。
それくらい、貴臣さんは優しい人だから。
　だから俺は、貴臣さんに言われた通り、誰よりもAのことを信じて、暖かな手を指し伸ばそうと決意したんだ。
　貴臣さんへの御恩を、Aを通してお返しできるように。

　さて、今日は引っ越し作業だ。Aが楽しみにしてたからな。頑張ろう。