庭の金魚の波紋のその先 (ページ14)

今日:2 hit、昨日:14 hit、合計:11,686 hit

7波ページ14

クリーム色の、木目が綺麗なアンティーク調のドアには、『ほくと』の3文字とその横に黒ワシがあしらわれたネームプレートが下げられている。
　これは昔、わたしが小学校の図工の時間に作ってプレゼントしたやつだ。中学生になって思春期を理解すると『あれ？こんな子供っぽいやつ、もしかして北斗嫌なんじゃない？外すかな…』とビクビクしていたが、北斗が高校3年生になってもまだ下げられたままなのに僅かばかりの安心感を得ていた。

　その安心感に背中を押してもらい控えめに、でも中に居る人に聞こえるようにノックする。
　先程のように冷たい声だったらどうしようかと思ったが、中から聞こえた返事は暖かさを取り戻していた。

「あの、夜ご飯持って来た。今日の当番は髙地で、北斗の好きな肉じゃがで、あの、」

　何か喋らないとって焦りしどろもどろになってしまう。そんな私を察してか、少し笑ったあと『入って来なよ』って入室を促してくれた。
それじゃあ、お言葉に甘えてって部屋に入れば、北斗は既に寝巻替わりにしている浴衣に着替え、窓台に腰掛け外をぼんやり見ていた。
　その姿があんまりにも薄くて、ふっとしたら消えてしまいそうで。
　だから、持って来た夕飯を少々乱雑にテーブルに置いて、北斗の足元に座った。それでも何だか引き留められてる気がしなくて、控えめに裾を摘む。

「なぁに？どうしたの？」
「……北斗が、どっかいっちゃいそうで、」
「ふふ、Aを置いてどこも行かないよ？」

　そう言って頭を撫でてくれる甘い北斗。
私はそれに吸い寄せられるように、腿に頭を預けグリグリと擦る。頭上からは『なぁによ、もう。くすぐったい』とクスクス聞こえ、片手だったのが両手で頭を撫でてくるのに変わった。