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4話 ページ5




アパートに戻ってヴィアベルさんともう一度うちの中へ入った。一連の出来事を思い出し、玄関で沈黙が流れる。


「言っておくが、俺は死んでねぇぞ」
『…分かってます。すみません、何も出来なくて』
「他の奴は見えないんだから仕方ねぇだろ」
『そうですけど…』


先ほど驚いてはいたがヴィアベルさんは落ち着いていて、私が動揺したのが馬鹿らしくなってくる。

でも彼が飲んだお茶は減っていたし、壁についた手だって本物そのもので幽霊のように透けているわけでもなければ、実体がそこにあるのは十分確認できる。

なのに警察官は声も聞こえなければ姿も見えず、お婆さんに至っては存在すら確認できていなかった。


『お力になれず申し訳ないです、警察にどうにかできる問題じゃないですね』
「…で、これからどうするよ」
『これから…』


玄関で立ちすくむ私の目をじっと見つめる彼の瞳が綺麗だな、と他人事のように思う。

先ほどの出来事もあってますますこの先、ヴィアベルさんが外で生きていける事が想像できないし、彼が今後どう考えているのか気になった。


『ヴィアベルさんは、この先どうするつもりですか?』
「人に見えないとなりゃどうにも出来ねぇな。大人しく生きていくしかないだろ」


彼の言う「大人しく」がどの程度なのか分からないが、目線は明後日の方向に向いている。彼も彼なりに考えているのだろう。

でも私以外に見える人がいなければこの先、どこかで彷徨っているのを見かけた時どうすればいいのか。一人ふらついている姿を想像しただけでげんなりした。


『…ヴィアベルさんに一つ提案があります』
「なんだ?言ってみろ」
『元の世界に帰るまで、うちに住みませんか』


これは神様の悪戯か、それとも冬のきまぐれか。彼と出会ってこうなる事は想定していなかったが、目が届く範囲で酷い目には遭って欲しくなかった。自分から初めて真っ直ぐヴィアベルさんを見つめれば、その目がほんの少しだけ、揺らいだ。


「…同情か?」
『とんでもない。これは人助けですよ』


困った時はお互い様と言うでしょう、と苦笑いすれば、ヴィアベルさんは何か懐かしむように笑ってくれた。


「分かった、これからよろしく頼むぜ。A。」
『はい、こちらこそ。ヴィアベルさん」


普通の大人にならこんな事するはずがない。だが私以外に見える人がいないという特殊な環境に置かれた彼を見捨てられなかった。





こうして私達の奇妙な共同生活が幕を開けた。

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綾兔 - 彰也さん» 消化ありがとうございます!やっぱり毎話毎話ヴィアベルと夢主の掛け合いが最高です!尊敬してます!それと、完結おめでとうございます!この小説は本当に大好きで、毎回楽しみにしてました!他の作品も頑張ってください!応援してます! (5月7日 21時) (レス) @page35 id: 837e222f3a (このIDを非表示/違反報告)
白黒名 - 完結おめでとうございます!ヴィアベル大好きな私は、この作品から色々な栄養をもらっていたので、「冬のきま ぐれ」には感謝の気持ちでいっぱいです!他の作品の執筆にあたっても頑張ってください!応援しています! (5月4日 23時) (レス) @page42 id: ee8aa02a3c (このIDを非表示/違反報告)
夜凪アリサ(プロフ) - 毎日楽しみにしていた冬のきまぐれ、終わってしまって少し寂しいですけどまた、いつか続き楽しみにしていますね!素敵な作品を作ってくださりありがとうございました!本当にお疲れ様でした! (5月4日 23時) (レス) @page42 id: 4a128355b0 (このIDを非表示/違反報告)
彰也(プロフ) - 綾兔さん» コメントありがとうございます!ちょうど告白じみた事を夢主がやってしまって〜のくだりをしようとしていたのでリクエスト消化しました!どうでしたでしょうか、、?喜んでくれれば幸いです〜またのリクエストお待ちしています! (4月28日 21時) (レス) id: 8516ee2748 (このIDを非表示/違反報告)
綾兔 - もうほんとに大好きです!ヴィアベルがかっこいいし、お話が面白くて毎回楽しいです!あの、できたらで良いんですけど、夢主がお酒飲んで酔ってて、ポロっと告白(?)しちゃうって言うのをみてみたいです!これからの展開がめちゃくちゃ楽しみです!応援してます! (4月28日 11時) (レス) id: 837e222f3a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:彰也 | 作成日時:2024年2月3日 0時

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