Short Story #02 (ページ8)

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「飯行きたくなーい。」

「え？」

「って言うと思った。」

「誰が？」

「Aしかいないじゃん」

「なんでよー。」

「顔死んでるから、それに金曜だしね。」

「死んでる？」

「うん。家に帰ってテキトーにして寝たいーって感じだろ？」

「そんなことないけど。」

「えー嘘だよー。」

「嘘じゃないってば。」

「はい！イライラしてるー。」

「してないよ。」

この人の前では可愛い人で居たいって思ってる。
我慢してるとかそういうのじゃなくて、いい彼女で居たいっていうか。
うまく説明できないけど彼はモテるからただ不安なだけ。

いつも部屋をきれいにして、洗いざらしのスウェット用意して。
会社帰りに料理教室行って美味しい料理を作って。
できない自分を見せたら嫌われちゃうかもって思ってるところがある。

そうじゃないってわかってても…自分なりに完璧で居たいって思うから。

「家帰ろう。」

「ご飯は？」

「いいじゃん、帰ろ帰ろ。」

返事をする前に、私の右手をギュッと握って歩き出す。
冷たい手に結構待たせてたなぁって思いながら、可愛くない態度をした自分にまた凹む。
仕事納め前で自分だって営業で疲れてるはずなのに。

＜余裕がある彼女で居たいのに、できない自分が嫌で仕方ない。＞

「はいただいまー！」

あれから一言も交わすことなくついた我が家。
靴を脱いで振り返った彼と目が合って、不思議な空気が流れる。

「おかえり、A。」

「うん…ただいま。」

「1週間残業お疲れ、早く靴脱げーむくむぞー。」

目が無くなっちゃうくらいに笑う彼。
なんだかやっぱり今日はいつも以上にテンションが高い。
廊下を歩いてリビングの扉を開けると、部屋が片付いてる。

「ごめん。」

「ん？」

「脱ぎっぱなしのジャケットはクリーニング出した。
　洗濯はさすがにあれだったから、カゴにいれただけにしておいた。」

「ありがと･･･えっとこれどうしたの？」

「飯はテイクアウト！
　うちのお得意さんのデリバリー結構うまいんだって。」

「すごい美味しそう。」

「だーろ？あとは…こっち来て？」

寝室の扉を開けて、長い指がひらひらと私を手招く。